SDGsロゴデザイナーが描く、行動を促すコミュニケーションデザイン。[前編] 2023/08/10

ヤーコブ・トロールベック(The New Division 代表) × マーティン・パーソン #01

TAZUNERU[たずねる]
ボルボ・カー・ジャパンのマーティン・パーソンが、これまでにない捉え方やアイデア、技術でサステナブルな活動に取り組み、各界でイノベーションを起こしているリーダーたちを“たずねる”。



2023.4.8にオープンした「Volvo Studio Tokyo」にて。



The New Division 代表 ヤーコブ・トロールベック(Jakob Trollbäck)

スウェーデン出身、クリエイティブディレクター。 1999年にクリエイティブ・スタジオ「Trollbäck+Company社」(米国・ニューヨーク)を設立。数多くの実績と受賞経歴を持つ。現在は、サステナビリティに関するコミュニケーションに特化した「The New Division社」(スウェーデン・ストックホルム)を立ち上げ、代表として幅広く活動している。SDGsの理念をもとに、デザインとワーディングを融合させた取り組みは、国際的にも時代を先取りしたアプローチとして評価が高まっている。



「SDGs」は今や世界中の人々が知る言葉となりました。2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲載された17のゴールと169のターゲットを、わかりやすく視覚化し、世界に受け入れられるコミュニケーションシステムを設計した、スウェーデン出身のヤーコブ・トロールベックさん。SDGsのコミュニケーションデザインは、サステナビリティ関連の目標が世界中に知れ渡った史上初の成功事例とも言われています。目標年として定められた2030年へのちょうど折り返し点を迎える今、SDGs達成に向けて、グローバル・ゴール(世界共通の目標)の正しい理解と、行動を促すコミュニケーションの重要性について、来日されたヤーコブさんを「Volvo Studio Tokyo」にお招きして語り合っていただきました。



世界中に届くために、シンプルな言葉とカラフルで楽しいデザインがカギとなった。



マーティン
SDGs(国連の持続可能な開発目標)のロゴをデザインされたプロジェクトについて改めてお話しいただけますか。
ヤーコブ
映画監督リチャード・カーティスと別件で打合せをしていた時がすべてのはじまりでした。彼は「国連が持続可能な開発のための目標を発表するけれど、このままでは、この地球の未来の大切な鍵を握る目標が、限られた担当者や専門家にしか知られない。誰かがこの目標をわかりやすく世界中の人々に伝えるということをやらなければならないよ。」と言ったのです。そこで私は、その挑戦に取り組むことに名乗りを上げたのです。




マーティン
危機感をもった映画監督の言葉がきっかけだったのですね。世界中の人々にわかりやすく伝えるということは重要な役割ですね。どのようなアプローチをされたのですか?
ヤーコブ
それは17の目標と169項目ものターゲットが長く難しい言葉で書かれた、いわゆる国連文書だったので、情報の整理から行いました。これはデザイナーとして私がいつもやっていることのひとつです。
まずは17の目標について、たくさんの難しい言葉の中から、なにが本当に重要なのかを考え、不要なものはすべてそぎ落とし、シンプルでわかりやすい言葉に書きかえました。例えば、目標1の”End poverty in all its forms everywhere”(あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる)は”No Poverty(貧困をなくそう)”、目標 14の” Conserve and sustainably use the oceans, seas and marine resources for sustainable development”(持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する)は”Life Below Water”(海の豊かさを守ろう)というように。実はこれは私たちが情報の整理をするためにつけたニックネームのようなものだったので、これがそのまま採用されることになるとは思いもしませんでした。


SDGs169ターゲットのためのツール「ターゲット・ファインダー® 日本語版」。ヤーコブ・トロールベック氏(The New Division社)と株式会社ワンプラネット・カフェによるもの。



マーティン
シンプルな言葉づくりから始められたのですね。よりポジティブで、直感的にわかりやすいですね。他にはどんな工夫があったのでしょうか?
ヤーコブ
最終的には、17の目標と169のターゲットの『言葉を視覚的にもわかりやすしよう』と、ピクトグラムのようなデザインとカラーで表現しました。カラフルな色使いも大切なことです、見るとハッピーな気持ちになって、誰からも好まれるように。それから、「持続可能な開発目標」を身近に感じてもらうための呼称も大切です。みんなで目指すゴールだということが伝わるよう、「グローバル・ゴール(The Global Goals)」と名付けました。
マーティン
世界中の人々とコミュニケーションをするための、さまざまな工夫が盛り込まれたのですね。
ヤーコブ
そうです。世界中の人々がグローバル・ゴールに関心を持ち、行動に移してもらうためには、目標を「自分ごと」として捉えてもらわなければなりません。そこで、同僚のクリスティーナ・リュグレスリー(Christina Rüegg Grässli)と私は、目標を明確にしつつ、無駄のないクリーンでシンプルなデザインと、見る人が取り組みたくなるような楽しくてカラフルな色づかいを心がけました。これは余計な装飾を削ぎ落した日本の美意識とも共通していると思います。


2040年のグローバルな目標に向け、「人々を行動に促す」ボルボのチャレンジ。



マーティン
「どのようにして人々に行動を促すのか」これは私たちボルボでの取り組みにも共通する課題です。大変共感しました。

ボルボは、2040年までにクライメート・ニュートラルな企業となり、循環型ビジネスの実現を目指しています。その目標を達成するために、私たちはビジネスパートパートナーやお客様、そしてボルボのメンバーにどのように行動を促すかを考えています。まさに今、お話しいただいたことと同じですよね。具体的な行動を起こし、それをエキサイティングにすることが重要だと思っています。私もこのようなチャレンジが大好きです。

私たちが今いる「Volvo Studio Tokyo」は、ボルボの目標に向けた行動の一つです。ここは、世界初のEV(電気自動車)に特化したスタジオで、ボルボの歴史やセーフティとサステナビリティに関する取り組み、そして環境先進国であるスウェーデンの文化に触れることができるスペースです。ボルボのブランドを体現し、私たちが思い描くサステナブルな未来を体感してもらうことで、ここを訪れてくださった方々の意識や行動が少しでも変わるきっかけをつくる狙いもあります。




ヤーコブ
確かに、私も足を踏み入れた時スウェーデンの空気を感じました。ボルボでは2040年のグローバルな目標に向け、2030年までに販売するすべての車をEV(電気自動車)に移行することを宣言していますね。最大の課題はどんなことですか?
マーティン
EVに関しての最大の課題は、バッテリーですね。今はバッテリーをサステナブルな方法でつくることも、再利用やリサイクルの方法も簡単ではありません。しかし、車のパーツについては、長年にわたりリサイクルやリユースのノウハウが蓄積されてきました。そのため、バッテリー問題には多様なソリューションが必要になります。
ヤーコブ
ボルボが提供できる他のモビリティ・ソリューションについてはどのようなものがありますか?
マーティン
そうですね。日本では、車を所有したがらない人が増えていて、特に若い世代を中心に大きなトレンドとなっています。彼らは環境意識が高いからだけでなく、車を持つことに関わるさまざまな事を面倒だと感じているのです。しかし、彼らも移動手段が必要です。「自由なモビリティ」を求めているのです。そこで、私たちボルボは、新たなアプローチとしてサブスクリプションを取り入れました。これは日本で初めて導入した取り組みです。また、カーシェアリングという試みも開始しています。ボルボの仕事は単に車を売ることだけではありません。さまざまな方法でモビリティを提供することなのです。




ヤーコブ
スウェーデンの都市部で展開されているカーシェアリングサービス「ボルボ・オン・デマンド」は、私もよく利用していますよ。利用者も多いので、かなり実用的に運用されていますね。アプリで車を予約できますから、私はイケアに買い物に行くときなどに、よく利用しています。タクシーの料金の1/3くらいの値段で利用できて、とても便利です。
マーティン
面白いですね!スウェーデンの「ボルボ・オン・デマンド」の利用状況で、多くの利用者が目的地としているのがイケアだそうです。

「ボルボ・オン・デマンド」は、スウェーデンで年間20,300トンのCO₂排出削減に貢献したというデータもあります。これは都市部の土地利用や自動車所有のあり方に変化をもたらしながらも、個人に合わせたサステナブルで安全なモビリティを提供することを目指しています。2040年までに循環型ビジネスを実現するというボルボの目標を後押しする取り組みです。日本でも、ボルボは他社と連携してカーシェアリングの取り組みを始めたところですが、これが上手くいけば、ストックホルムと同様の取り組みが東京でも実現ができると期待しています。


聞き手:ボルボ・カー・ジャパン株式会社 マーティン・パーソン

1971年スウェーデン生まれ。明治大学に1年間留学して経営学を学び、1999年ボルボ・カーズ・ジャパンに入社。約10年を日本で過ごす。その後、スウェーデン本社でグローバル顧客管理部門の責任者を務め、ロシア、中国などを経て、2020年10月、ボルボ・カー・ジャパンの社長に就任。日本で楽しみにしているのは、温泉地巡り。日本の温泉は、旅館や料理などトータルに楽しめるのはもちろん、温泉地の豊かな自然が何よりの癒し。