エシカルは、人間らしく、地球に優しく暮らすための新しい『ものさし』 2023/12/18



MEZASU[めざす]
ボルボが“めざす”のは、「人」を守り「人の未来」も守ること。人だけでなく、地球にもポジティブな未来のために、私たちが実践しているサステナビリティをご紹介します。



ブランド体験スペースVolvo Studio Tokyoで毎月開催されているサステナビリティ・イベント"For Life"。今回のテーマは「エシカル消費」です。とても難しいテーマではありますが、2022年、TAZUNERU[たずねる]でマーティン・パーソン氏と対談したエシカル協会代表の末吉里花さんに、ご自身の体験をもとにわかりやすく講演していただきました。
「若い頃は社会的な問題にほとんど興味がありませんでした」と語る末吉さん。世界80カ国を旅する中で、自らの意識が変わったといいます。講演では、私たちの消費行動が知らず知らずのうちに地球環境や人権問題に影響を及ぼしていることに警鐘を鳴らしつつ、製品の背景や物語を知ることの大切さ、そして自ら行動していくことの素晴らしさを私たちに届けてくださいました。



エシカルとは、人や地球環境、社会、地域におもいやりのある考え方や行動



「この世界は、一握りの利益とか権力のために、美しい自然とか弱い立場の人たちが犠牲になっている構造だと感じました」。テレビ番組TBS系『世界ふしぎ発見!』でミステリーハンターとして華やかに世界をレポートしてきた裏側で、末吉さんが「見出した」という意外な発言に、会場が一瞬で引き込まれていきました。

取材やプライベートでの海外旅行を通して地球環境への危機感を持った末吉さんは「地球は1つ、みんなつながっている」との考えから、「日本で暮らす自分たちも影響を与えているはず」だと、地元鎌倉で環境保全活動を始めました。活動を続けていく中で出会ったのがフェアトレード。末吉さんによれば、フェアトレードとは「途上国の立場の弱い生産者を支援する貿易の仕組み」であると説明します。途上国の労働者に低賃金・重労働を一方的に押しつける貿易ではなく、より公平な価格での貿易を行い、生産者が適正な報酬を得られるようにするものです。





2015年、末吉さんはフェアトレードを包み込む大きな概念である「エシカル消費を推進する」ために、一般社団法人エシカル協会を立ち上げました。地球環境と人権問題の両方にアプローチする活動に取り組むためです。「エシカル」とは、一般的には倫理的と訳されますが、エシカル協会では「人や地球環境、社会、地域におもいやりのある考え方や行動」と定義しています。また、協会は「エシカルな暮らし方が幸せのものさしとなっている持続可能な世界を実現する」を目標に掲げ、世界の問題として、「深刻な気候変動」と「今も続く人権侵害(児童労働・強制労働)」を主に取り上げています。



知らず知らずのうちに影響を与えている私たち



1つ目に取り上げた世界の問題は、急速に進む温暖化です。産業革命後はCO₂の排出量が右肩上がりで増え、いまでは過去最大にまで上がってしまってしまいました。環境省がシミュレーションした天気番組の予想図がスクリーンに投影されると、参加者からどよめきが起こりました。そこには、産業革命以前からの気温上昇を1.5度に抑える目標を達成できなかった2100年の夏、本州各地の最高気温が40度を超えると予想されていたからです。

2つ目の問題は、途上国において今も続く人権侵害(児童労働・強制労働)です。末吉さんが紹介した世界の児童労働者数は、なんと1億6000万人で、これは日本の人口よりもはるかに多い数字です。この事実に会場からはため息が漏れました。





「少しショッキングな写真も含まれています」と断りながら末吉さんが投影したスライドには、1100人以上が亡くなったバングラデシュでの縫製工場崩壊事故(2013年)の痛ましい様子が映っていました。「崩壊した工場では、私たちが普段購入しているファストファッションや誰もが知る有名ブランドの洋服がつくられていました」との末吉さんの一言が会場に響きます。日本で生活している自分たちも、知らず知らずのうちに強制労働に影響を与えていることを実感しました。



People care when they know(人は知れば気にかける)



末吉さんは「サプライチェーンが長く、生産過程が透明でないため問題が発生している」と私たちに教えてくださいました。どこで誰がどのようにつくっているのか。目の前にある製品自体はもちろん、製品をつくる部品一つひとつをとっても、実際につくっている生産者から私たちの元へたどり着く過程が長すぎて見えていないのだと。つまり私たちが生産過程の裏側を何も知らないことが大きな問題であるということです。末吉さんが「製品の背景や物語を知ることが重要です」と訴えるのは、このことを心配しているからです。





末吉さんは「People care when they know(人は知れば気にかける)」として、消費者は生産の裏側を知れば行動が変わることを実証したドイツ・ベルリンで行われたキャンペーンを紹介しました。街ゆく人々が安価なTシャツを買う前に、途上国での重労働によりできた製品であることを動画で観せると、ほとんど人が購入せずに寄付していく姿が印象的でした。「人は知れば気にかける」。文字通り、まさに会場中が気づきを得た瞬間でした。



エシカル消費を話題にすることで、エシカル消費が進んでいく



では、私たちが行動するためにはどうしたらよいのでしょうか。末吉さんは、私たちに役立つキーワードとして「認証ラベル」や「7R」を挙げてくれました。目の前にある製品やサービスがフェアトレードであることは、「認証ラベル」で知ることができます。さらに、「7R」と呼ばれる、Rethink(考え直す)、Reduce(減らす)、Repair(修理・修繕する)、Reuse(繰り返し使う)、Re-commerce(製品の長期利用)、Renewable(再生可能な資源に替える)、Recycle(資源として再利用)に意識を向けることで、消費行動が変わるというのです。

「7R」については講演後の質問タイムでも深く触れ、カーデザイナーをめざしているという高校生からの質問に対し、製品をつくる段階から「7R」の視点を取り入れることが大事と提案しました。「無駄が出ない」「リサイクルしやすい」「消費者が修理しやすい」といった要素をデザイン設計に活かすことが重要だと、アドバイスしました。



日々の暮らしの中でエシカル消費を実践するために、『7R』を意識することで消費行動が変わってくる。



また国や自治体の取り組みが進んできたことや、中学や高校の教科書にもエシカルという言葉が登場してきたことなどを話題にしながら、質問に答えていきます。これらは社会が変化している兆しであり、一人ひとりの行動が、これからのエシカル消費を確実に進めていく手助けになるものです。そのために、もっと積極的に「エシカル消費を話題にしていってほしい」と想いをお話しされました。



問題の一部になるか、問題解決の一部になるか



講演の最後には、末吉さんが壁に当たったときに、アメリカのアウトドア製品メーカーであるパタゴニアの創業者、イヴォン・シュイナードさんから直接かけてもらったという言葉「もし、あなたが今活動やめてしまったら、あなたは問題の一部になる。でも、もしあなたが頑張って活動を続けていけば、あなたは問題の解決の一部になる」を披露。「会場に集まったみなさんとともに、エシカルな社会をつくっていきたい」という想いで締めくくりました。

トークイベント後の恒例のフィーカタイムでは、フェアトレード認証を受けたコーヒーとクッキーを楽しみながら、参加者各々がエシカルな話に花を咲かせていました。会場には、末吉さんが『世界ふしぎ発見!』に出演されていた頃のスタッフさんや、過去に講演された学校の先生なども来られていて、昔話から、末吉さんの講演に励まされて活動を続けている生徒さんたちの新たな取り組みなど、たくさんの話題に満ちあふれた空間となっていました。





エシカル消費について楽しそうに話しているみなさんの笑顔を見ているだけで、エシカルが、人間らしく、地球に優しく暮らすための新しい『ものさし』であることを心で感じとれ、幸せで満たされる思いがしてきました。末吉さんの講演をはじめ、この会場でたくさん生まれた話題が、家で、職場で、地域でも語られ物語として広まっていくことで、エシカル消費が日本の社会に深く根付いて、当たり前のものになっていく、そんな学びを得ることができたサステナビリティ・イベント"For Life"でした。