「わたしたちが生きたい社会をつくる」ために。参加型の民主主義をめざして。 2024/02/22



MEZASU[めざす]
ボルボが“めざす”のは、「人」を守り「人の未来」も守ること。人だけでなく、地球にもポジティブな未来のために、私たちが実践しているサステナビリティをご紹介します。



気候変動対策、健康的な生活やジェンダー平等の実現、クライメートニュートラルなエネルギーの拡大。サステナブルな社会の実現のためには、多くの人々が力を合わせ、行動を変容させなくてはなりません。そのためにはさまざまな世代が声をあげ、その声が響く社会にしていくために「民主主義への参加」が重要だ、と能條桃子さんは語ります。20代の投票率が80%を超えるデンマークに留学したことをきっかけに、日本の若者の政治参加の機会の少なさに危機意識を抱き、行動を起こしている25歳。ボルボと同じく若い世代を応援する能條さんをVolvo Studio Tokyoのサステナビリティイベント”For Life”にお招きして、「わたしたちが生きたい社会をつくる」ために必要なデモクラシー(民主主義)とは何か、お話していただきました。



若者の投票率は8割超。能條さんがデンマークへ留学した理由



能條さんは1998年生まれ。25歳にして、「若い世代なくして日本はない」という想いから、2019年に同世代の若年層がもっと政治に参加できる社会をつくるべく、「一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げ、投票率の向上などに取り組むほか、政治のジェンダー平等をめざす「FIFTYS PROJECT」も発足し、政治における女性議員の割合を5割に増やすことを目的として活動に取り組んでいます。





会場には能條さんと同世代の方をはじめ、さまざまな年代の方々が集まり耳を傾けました。

能條さんが今の活動を始めるきっかけとなる原体験は小学5年生のときのこと。学校の先生から声がかかり、たまたま参加した「青少年議会」でした。当時の市長の前で、日常生活の困りごとや感じていることなどを話す経験を通して、「おかしいと思うこと、変えたいと思うことがあれば政治の場で伝えればいいんだ!」と子どもながらに感じたと言います。また、その時の女性の市長が活き活きと働く姿も印象に残っているそうです。2023年現在も市区町村のトップに就く女性の割合はわずか3%程度。社会のあり方を決定する場で働く女性を目の当たりにした経験は、その後の能條さんのキャリアに大きな影響を与えました。

その後、大学へ進学した能條さんは、選挙事務所のインターンへ参加。それも「青少年議会」に参加して子ども心に「政治への参加って大事なんだ」と思った経験があったからです。街頭演説を聴きにきている人は高齢者の方がほとんど。そのためか、演説の当初は「若い世代のために…」と訴えていたものが日を追うにしたがって高齢者に向けた内容に変わっていきました。周囲では「若い人は政治に興味ないのだから仕方ない」という空気をあちこちで感じたと言います。

「でも学生や20代の若者だって、生きづらさを抱えながら毎日を過ごしている。その悩みを解消してもらうには、若い世代が選挙に参加しなくてはいけないと身をもって感じました。若い人がもっと政治に関心を持ち、参加するにはどうしたらいいのだろう?と考え始めました」

この疑問の答えを探ろうと能條さんが留学したのが、若い世代の投票率が8割を超える国・デンマークです。デンマーク国民にとって、選挙はワクワクするイベント。友人と一緒にポップコーンを食べながら党首討論を見たり、開票日には学生たちがディナーを食べながら選挙速報を見守ったりする光景に、誰にとっても日常の延長線上に選挙があると実感したと言います。また、41歳の女性首相の誕生や、女性議員の割合が定数の4割を超えるなど、若い世代や女性の政治参加も積極的に行われていることが、選挙が生活の一部として根付いていることがわかります。



デンマークでは、選挙は若い世代にとってもワクワクするイベントになっている。



「女性議員数の割合が高いことに私は驚いたのですが、デンマークの友人に伝えたら『まだまだ低いよ!』と怒っていたことにも驚きました。日本の現在の衆議院における女性の割合は現在約10%。日本の状況が当たり前になりすぎて、気づかなかったことがたくさんあると思いました。ではデンマークの若い世代が特別優秀なのか、と言われるとそうでもないし、全員が政治的アクティビストというわけでもありません。けれど、多くの人が社会に関心を持ち、声を上げるということが自然と身についていることは事実です」と能條さんは話します。

デンマークでは高校卒業後、大学にすぐに進学する人は少なく、世界中を旅したり、職業専門の教育機関や、民主主義的思考を育てる成人教育機関「フォルケホイスコーレ」に通うなど、自分自身の将来や社会についてじっくり考えた後に、大学に進学する人が多いのも特徴です。この時間が社会的に重要視されており、若者の政治参画が活発な理由の1つなのだそうです。

また、2019年デンマークの国政選挙では「気候変動」が大きな争点となりました。それは、前回の2015年の選挙の際、気候変動対策を掲げたとある新しい政党が若い世代の支持を受けて、多くの議席を獲得しました。これがきっかけで、2019年の選挙ではどの政党も気候変動対策を政策のひとつとして掲げるようになったそうです。未来を担い、環境問題に最も関心の高い若い世代が政治を動かした1つの事例に、「こういう景色を日本でも見たい!と思った」と能條さんは振り返ります。



自分たちの声で身の回りから変えて行くのがデモクラシー。生活の延長線上にデモクラシーは存在する



能條さんがデンマークで学んだことは2つあります。1つは「民主主義(デモクラシー)」の重要性です。
学校教育の中で民主主義は「1つの政治体制」と認識してきた能條さんですが、デンマークで目の当たりにした「生活の延長線上にデモクラシーは存在するもの」と考えを新たにした、そのエピソードを続けます。

「学校の授業で、みんなが寝てしまう、とても退屈な授業があって。日本だったら『あの授業、つまらないよね』と話して終わるのですが、デンマークの学生たちは、授業に対して文句を言うのではなく、なぜ退屈なのか、どういう授業を望んでいるのか、自分たちの意見を書き出して先生のところに提案をするのです。そうすると、次の授業からは少し内容が面白くなっていたりして。自分たちの声で自分たちが直面した周囲から変えていく、これがデモクラシーです。いま自分がいる小さなコミュニティで『できることを変えた経験』が、『自治体や国は変えられる』という思考につながるのだと思いました」

2つ目は、「国民と政治家は鏡である」という考え方です。

「これも留学中に『政治家に女性が少ないとか、世襲が多いとか、自分が選んでいる感覚が感じられない』など、私が日本の政治の不満を言ったこと時のことです。友人は『でもいい政治家がいないのだとしたら、いい国民がいないってことなのではないのか。あなたはそのために何をしたの?』と問われて気づいたのです」と言います。政治に不満を持つのならば、どんな社会になってほしいかを思い描き、同じ未来を描き活動している政治家を応援することが必要なのだと能條さんは伝えます。

そして、デンマークでの学びから、能條さんは日本の政治における2つの課題に取り組んでいます。
1つ目は、若い世代の選挙での投票率を上げていくことです。20代の投票率は、近年微増しているものの40%を下回り、まだまだ低いのが現状です。「そもそもわからない」「とっつきにくい」と思われがちな選挙や政治をInstagramを活用して、グラフィックで視覚的にわかりやすく解説しています。また本の出版やスマートフォンアプリを通じて、単に投票を促すのではなく、自らが社会を変える有権者であることを伝えるためのコンテンツ作りなど、若い世代ならではの視点で、政治へのアクセスをしやすくするため、多様なアプローチで活動をしています。



能條さんが代表を務める「NO YOUTH NO JAPAN」では若い世代向けにSNSを利用した、わかりやすい情報発信を行っている



2つ目は、被選挙権年齢の引き下げです。

「同年代の立候補者がいるかいないかで、選挙に行くか、政治に関心を持つかどうかのモチベーションも変わってくるはずだと思うのです。現在、日本では衆議院は満25歳以上、参議院は満30歳以上でなければ立候補できません」

ノルウェーのオスロでは19歳の議員が誕生していますが、世界的に見ても10代、20代の若者が議員として政治に積極的に参画しているのは珍しくありません。日本でも若い世代の声を届ける“私たちの代表だ”と思える人を議員にしようと被選挙権年齢を引き下げるべく、ロビー活動やイベントの開催を行なっています。



ノルウェーへ留学中に当選した同い年の22歳の女性議員。能條さんも大いに勇気づけられたとのこと。



「気候変動、世界の平和、人権の保障など、たくさんの課題を解決していくために、『わたしたちが生きたい社会はわたしたちがつくる』と言える社会の実現をめざし、活動を続けています」と締めくくりました。

能條さんの講演の後、Q&Aのセッションでは数名の手が挙がります。





能條さんと同じ25歳の方は、同世代としての感想を素直にお話しくださいました。

「『政治家VS日本の若い世代』と二項対立的になりがちな政治の課題を、そうではなく今できることに前向きに取り組み、変えていこうとする能條さんの姿勢に勇気をいただきました。自分の身の回りにある問題にも改めて真っ直ぐ向き合いたいと思いました」

続いて子育てをする40代の方からの質問に、能條さんが答えます。
「私は、子どもたちと家の中で、サステナビリティの話も、政治についての話もしません。能條さんのお話を聞いて、子どもの頃の環境が政治との関わり方を変えるのかもしれないと思いました。子どもたちとどう向き合うか考えているのですが、能條さんのご家庭では政治の話などはよく話題にあがっていたのでしょうか?」

「私の家庭も政治の話をよくするわけではありませんでした。政治への関心を育むのは、家庭教育だけではないと思います。ヒントになるとしたら…。デンマークでは幼い時から家庭でも外の環境でも『自分で選ぶ』という経験がたくさん用意されています。例えば、デンマークの幼稚園では、いくつかの中から『今日のおやつはどれがいい?』と選ばせたり、雨の日に長靴を履くか否かなど、子どもが自ら決めるよう機会が与えられます。例え非効率であったとしても、大人が先回りして答えを与えるのではなく、子どもに考えて選ばせます。時には失敗もしますよね。その経験をしながら成長を重ね、将来的に常に自分の意見を持てるようになるのだと感じます。まずは、その子のやりたい道を応援する、ということが、親の世代としてできることなのかな、と思います。」

そのほか、海外の留学生などを含めた年代・国籍もさまざまな方からの問いかけがあり、トークイベントは終了しました。



トークイベント終了後のフィーカタイムでも、能條さんの周囲にはたくさんの参加者が集まり活発に意見を交わしていました



最後に、同じ若い世代の方々へのメッセージもお伺いしました。

「まずは、知ることです。私たちのInstagramなど、政治について発信している情報をフォローしてみることで色々な気づきがあると思います。『暮らしの中にある痛みにもっと敏感になる』ことも大事です。学校のこと、仕事のこと、何か理不尽だと感じて悩んでいる方は多いと思います。それを、仕方のないことだからと流すのではなく、『声をあげてもいい』と信じて周りの人に言ってみる、それだけで共感してくれる人はいるはずです。

私は普段、同年代の方と関わる機会が多いので、今日はさまざまな年代の方がいらしてくださって面白かったです!日本やデンマークの政治の現状について、知らなかった!というお声もいただき、私の活動の輪が広がるきっかけになれば嬉しいです。」