COP28から考える「日本の気候変動対策と未来」 2024/02/01



MEZASU[めざす]
ボルボが“めざす”のは、「人」を守り「人の未来」も守ること。人だけでなく、地球にもポジティブな未来のために、私たちが実践しているサステナビリティをご紹介します。



およそ200の国や地域の首脳らが集まり、気候変動対策について話し合う国連の会議、「COP28(国連気候変動枠組条約第28 回締約国会議)」が、2023年11月30日~12月13日に、ドバイで開催されました。その会議終了の“翌日”というホットなタイミングとなった12月14日、Volvo Studio Tokyoでサステナビリティ・イベント“For Life”を開催しました。

今回は「クライメート・グループ・ジャパン」との共催により、「研究」「NPO」「企業」の3つの視点から気候変動に関する専門家をお招きし、パネルディスカッションを行いました。COP28の振り返りとともに、来場されたみなさまと一緒に、気候変動に対する日本の立場や今後の展望について理解を深める貴重な機会となりました。



ボルボは2030年までに 自動車1台あたりのCO₂排出量を75%削減する



冒頭、ボルボ・カー・ジャパンのサステナビリティ担当ニコ・ミラ氏は、「ボルボの持続可能性へのコミットメントは、先週ドバイで開催されたCOP28でも示されました。ボルボは2030年までに 自動車1台あたりのCO₂排出量を75%削減することで気候変動対策を強化していくと発表しました。
しかし、これを達成するためには私たちの努力だけでは不十分です。再生可能エネルギーや充電インフラなどの進歩を提供していくためには、他の社会からの助けも必要です。本日は日本における気候変動対策の現状について議論したいと思います。さまざまな分野から専門家にパネリストをお招きしました」と、イベントの趣旨を伝えました。

早速、パネルディスカッションの進行役である、鎌倉サステナビリティ研究所 代表理事の青沼愛氏にバトンタッチして、イベントがスタート。
終わったばかりのCOP28に関する最新の情報と、日本の気候変動政策の概要について、専門家である公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の栗山氏の解説から始まりました。



(左)進行役、青沼愛氏。鎌倉サステナビリティ研究所 代表理事。2018年に設立した非営利の独立系シンクタンク。「サステナブルファイナンス」、「ビジネスと人権」領域を中心に、国内外の企業・団体と連携した調査分析や人財育成の勉強会、人財交流を提供している。
(右)栗山昭久氏(工学博士)。気候変動とエネルギー領域リサーチマネージャー。公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)研究員。1998年日本政府と神奈川県の支援で発足した団体のIGESは学術として研究だけではなく「Agent of Change」と位置付け、研究成果を社会に還元して世の中の変化を起こすことを主な目的とする。地方自治体、企業、金融機関などさまざまなステークホルダーとともに研究活動やプロジェクトを実施。



日本の中心的政策は「GX(グリーントランスフォーメーション)」



初めに登壇した栗山昭久氏は、IGESで気候変動とエネルギー領域のリサーチマネージャーとして働く博士(工学)です。ここでは、日本が掲げる目標と、それを達成するための施策について語られました。
栗山さん「本日のトピックである日本の気候変動政策についてお話しします。日本政府は、2030年に温室効果ガス(GHG)排出量を46%減、2050年にはゼロにするという目標を持っています」

この大きな削減目標を、どう実現していくのか。栗山氏はまず、その考え方について、温室効果ガス排出量の中核であるCO₂の排出量を「四角形」で表した図で示しながら、わかりやすく解説します。





横軸を「エネルギーの消費量」、縦軸を「エネルギー当たりのCO₂排出量」として表現し、この四角を“小さくしていくこと”が重要で、そのために、

1.横軸のエネルギー消費を減らしていく要因として「省エネ」「行動変容」。
2.「EVを含む電化」。電気の部分を大きくしていくことに加え、電化自体がエネルギー効率改善の効果があるためより横軸を小さくすること。
3.縦軸の「グリーン水素」や「再エネ」によって減らす。

これらが脱炭素の取り組みの概要になることを伝えました。

さらに脱炭素の取り組みを進めるための、日本の中心となる政策について紹介されました。
「この考え方が、基本的な目標として共有されているなかで、今の日本の中心的な政策になっているのがGX(グリーントランスフォーメーション)と呼ばれる政策です」

GXとは、今後10年を見据えて、「エネルギーの安定供給」と「脱炭素社会への移行」「経済成長」を同時に実現する政策をまとめたロードマップのこと。国をあげて取り組む基本方針が示されています。そのなかにはGXを進める方法として、産業競争力強化・経済成長を実現するための、さまざまな分野での投資促進策が盛り込まれています。

「10年間で150兆円の投資を促そうというもので、国は20兆円の投資を行い、残り130兆円は民間からの投資になる見通しです。その民間の投資分野を見ると、最も大きいのが自動車産業の33兆円。次に再エネ、住宅建築物、脱炭素DX、系統強化と続きます。これらの産業に携わる企業に、よりGXを進めていく活動が期待されているということが見えてきます」と栗山さん。



COP28の「10年間でエネルギーシステムを化石燃料から転換する」という発表



栗山氏ご自身が現地で目にしてきたCOP28の振り返りは、CO₂排出量、温室効果ガス削減対策に関連する部分を中心に取り上げ、その議論から見えてきたポイントが話されました。

まず冒頭の文章で「 “それぞれの国情などを考慮に入れ、国ごとに決定された方法で以下の世界的な努力に貢献するよう求める”と、遠回しな言い方をしています。つまり、何かの義務を課すものではないものの、文章として大きな方向性を示したという意味で意義があります」





栗山氏はほかにも重要と感じた点を挙げていきます。

■「2030年までに再エネ容量を3倍、エネルギー効率改善率2倍」については、世界の共通認識になっていく可能性があること。

■「削減対策のない石炭火力の段階的削減に向けた取り組みを加速」は以前のCOP26から言われてきたことが文章に盛り込まれ、今後も優先課題として継続していこうという認識が共有されたこと。

■UAE理事長自身が“歴史的成果”と呼んでいるものが『10年間でエネルギーシステムを化石燃料から転換する』ということ。今までのCOPは化石燃料全体に対しては文書として入ってこなかったが、今回は言及があった。つまり、石炭だけではなく、ガスや石油も転換していくという大きな方向性を各国が合意できたことが最大の成果になると言われている。

最後に、交通分野に対しても大きな関心や要請が高まっている点にも触れました。
「自動車を中心にした交通分野は大きなCO₂排出源になっており、どんどん変えてこうという流れがあります。そして、そのなかで電化は1つの大きな要素であり、自動車業界のEV化はますます大事になっていることも読み取れます」と話しました。



日本の課題は「組織」の在り方と、サステナブル分野の人材の育成



パネルディスカッションでは、パネリストとして、栗山氏、新たに川村剛士氏と、倉地栄子氏が加わり、スタートしました。



(左)川村剛士氏。ポリシー&エンゲージメント・マネージャー。クライメート・グループ。2004年に発足した環境系NGO団体。企業や地方自治体からの「再生可能エネルギーをもっとほしい」「EVをもっと使いたい」などのニーズを把握し、メーカー企業や投資家、政策立案者に伝え、実現していく事業を展開。クライメート・グループ、RE100(再生可能エネルギー)、EV100(電気自動車)、SteelZero(鉄鋼)の日本担当。
(右)倉地栄子氏。株式会社メンバーズ GX プロデューサー。企業の脱炭素DX支援を専門とする社内カンパニー「脱炭素DXカンパニー」所属。デジタル事業をコアとし、「VISION2030」を掲げ、2030年にクリエイターの力で気候変動や人口減少を中心とした社会課題を解決していくことをめざす。企業の脱炭素事業推進(主にGHG排出量算定)にかかわる課題解決においてGX人材を提供している。



青沼氏は、日本の気候変動対策やCOP28での気候変動対策をふまえて、それぞれのパネリストが感じる「日本の課題」について問いかけます。

栗山さん「エネルギーシステムに関しては世界全体で大きく動いている状況があり、この変化を日本でも実施していくためには今までの延長線上では成し遂げられないようなことをやっていかなければいけません。つまり、今の組織の体制や制度ではできないのです。その組織再編のところが日本はなかなか動きづらいように感じています」

日本の組織という課題に対して、青沼氏は日本企業と多くの接点をもちながら仕事をされている川村氏と倉地氏に「日本企業、現場に対してはどのような課題を感じますか?」と掘り下げていきます。





川村さん「日本企業が難しいところは、日本だけでそれなりのマーケットがあるので、ある程度商売が成り立ってしまうところですね。そのため、日本独自の方法をどうしても模索してしまうところもあるように感じます。日本を超えて世界のグローバルスタンダードに合わせるのか、それとも独自のものをつくっていくのか、というところの活動がもっと活発になるといいのかなと思います」

一方で、倉地氏は“日本企業の人材不足”を実感していると話します。

倉地さん「たくさんの企業の方々とお話させていただきながら脱炭素に取り組んでいるなかで、1番大きな課題として感じるのは、それを動かせる人材がいない点です。海外では国の制度として、新しい社会への変化に対応する技術や知識を学ぶリスキリングや、環境的に持続可能な新しい製品やサービスを提供するグリーン市場に移行するための制度がありますが、日本では制度設計が不十分だと感じております。企業が脱炭素社会に移行する中で人(のスキル)も変化していく必要があるのにもかかわらず、日本ではまだ『公正な移行』に関する議論が活性化していません」



日本の「成功事例」は省エネ、そして再エネ



現在の日本が抱える課題を会場全体で共有したうえで、青沼氏は「気候変動対策における日本の成功事例はありますか?」と続けます。

ここでは栗山氏が「省エネ」を、川村氏が「再エネ」を、日本の成功事例として挙げました。

栗山氏は、省エネ化は進んでいて、日本のエネルギー全体が1つの製品を生産するのに導入するエネルギー量の推移を見ていくと下がっている、と話します。
「欧州では現在、ヒートポンプを使って暖房をすることで省エネをするという技術に投資が集まっていますが、日本では既にエアコンとして家庭に普及していますし、どんどん質のいいものが出ています。実際に欧州のマーケットでは日本のメーカーが多くシェアをもっています」

川村氏は、再エネに対する世間の認識との違いを説明します。
「よく巷で“日本は再エネが遅れている”と耳にしますが、実は導入量で言えば、この狭い国土の中で世界6番目に多いのです。太陽光発電では世界3位ですし、平地あたり太陽光の量は日本が1番多いのです。これで満足しない姿勢や、さらに増やしていく努力は必要ですが、そこまでをこの約10年でやってきたという実績は、誇るべきものじゃないかと思います」





倉地氏は日本の成功事例として、将来への可能性を含めて“洋上風力”に注目していると話します。
「洋上風力の導入可能量は日本全体の電力需要量の8倍ぐらいという試算が出ています。これは日本のエネルギー3つ分ぐらいを賄えるといわれます。これができると、エネルギー輸出も可能になったり、洋上風力を中心とした新しいサービスやマーケットができることで雇用も生まれたりするので、そんなことにも、ドキドキワクワクして見ていますね」



パリ協定の1.5℃目標を達成するために、私たちに求められることは?



パネルディスカッションの最後に、青沼氏はそれぞれに「今後、日本が気候変動のパリ協定の1.5℃目標達成に向かうためのキーポイントはどこにあると思いますか?」と質問します。

栗山さん「再エネの出力変動に対して、DX技術も活用しながら私たちの暮らしを上手に変えていくことでCO₂排出量を下げることも重要だと思います。これまで脱炭素や気候変動では議論されてこなかった私たちの暮らしや需要について、気候変動のためにやるのではなく、目の前にある課題解決をしながら、同時にエネルギー使用量やCO₂排出量を減らしていけることは、たくさんあります。それに気づけるように、自分たちのマインドを変えることからはじめるのが大事だと思っています」





川村さん「人によっては達成不可能な目標で意味がないとおっしゃる方もいると思いますが、達成できる、できないじゃなくて、そこにある目標に向かって毎日考えて、実行して、足りないぶんはまた後で考えて、実行する。その繰り返しが大事だろうと思っていますので、日々を活動していけるといいなと思っています」

倉地氏はご自身の仕事の観点から、日本企業の支援に注目しています。
「目標を達成する見込みがあるかと聞かれたら、あるようにしていくしかないというのが回答なんじゃないかと思っています。日本には面白い取り組みをしている企業がたくさんありますが、それをビジネスや企業の価値につなげることに苦戦している企業も多いです。私たちはそのような企業の困りごとをクリエイターの力を活用し支援していきたいと思っています」



Q&Aセッション 将来の新しいエネルギーで注目しているものは「ディマンド・リスポンス」



講演後のQ&Aセッションでは、青沼氏が「ご質問ある方いらっしゃいますか?」と会場に投げかけると、今回も何人もの手があがりました。

「10年後、20年後における新しいエネルギーや発電方法で、注目していることを教えてください」という質問に、それぞれの専門家の視点から、思わず興味をそそられる意見が語られました。

栗山さん「今までの社会ではほぼ安定して供給されるエネルギーを使っていたために、変動する再エネは厄介者であるように思われてきた側面がありました。たとえば、太陽が出ている日中や天候の影響も受ける太陽光発電や、風があるかどうかに左右される風力発電もそうです。ですが、考え方の発想を変えてみると、違ったことが見えてきます。需要する側が『変動する再エネに合わせて暮らしも変動していく(ディマンド・リスポンス)』という組み合わせになると、うまくいくことがたくさんあります。不安定で今までコントロールできなかったものをデジタルの力を活用することで、不便にはならず、私たちの生活も豊かになり、もしかしたらエネルギーコストがもっと安くなるかもかもしれません」





倉地さん「私はエネルギーの専門家ではないので難しいのですが」と前置きしながら、エネルギー変化による暮らしの変化に着目します。「今後、再エネの普及によって分散型な社会になっていくのではないかと考えています。生きる上で必要なエネルギーの様式が変わるこということは、私たちの生活様式も変化するものだと思っています。分散型社会になることで自分の好きな地域に住んだり仕事ができるなど、制約のない豊かな生活が豊かな地域を育んでいくのでは?と思っています。社会の変化は止まりませんのでポジティブに変化を楽しみたいです」

最後に、回答くださったのは、川村氏です。

川村さん「私は今の会社に入る前に十数年、エネルギー関係で働いていたのですが、今の質問をいただいて考えてもじつは思い浮かばなかったです。一発逆転満塁ホームランみたいな解決策や新たな方法があるのかもしれませんが、おそらくゴールデンアンサーはないと思っています。だから総合戦かなと思っていて、解決策をどのように自分の生活のなかに取りこんでいくべきかを考えていければいいのかなと思いました」

こうして約1時間にわたり行われたパネルディスカッションが終了すると、会場からは大きな拍手が送られました。

フィーカタイムでは会場にコーヒーとケーキが用意され、パネリストと参加者のみなさんとの交流会が行われました。さまざまな場所で日本の気候変動対策に対する感想や、パネリストへの質問が飛び交い、和やかな雰囲気のもと、"For Life"第6回は終了しました。