持続可能な社会を形作るスウェーデンのイノベーション[中編] 2021/09/07

Stories of Sustainability vol.3

MANABU[まなぶ]
Stories of Sustainability
スウェーデンなど北欧諸国をはじめ各国のサステナビリティな文化慣習や、取り組みをお伝えするのが「Stories of Sustainability」。未来を変えていくアクションやヒントを“まなぶ”。



(クレジット)Lena Granefelt/imagebank.sweden.se



2021年版の欧州イノベーション・スコアボードが6月に発表され、総合指数においてスウェーデンは2011年以降11年連続で1位となりました。これはヨーロッパの革新的な活動に関する調査で、EU加盟国が比較対象となり、ヨーロッパ各国の地域情報調査をもとに採点されています。「人的資源」「魅力的な研究体制」「融資と支援」「安定した投資」「創意工夫」「連携」「知的財産」「雇用面の影響」「販売への影響」、そして2021年新たに変更・追加された「情報技術の活用」「デジタル化」「環境の持続可能性」の12項目を主要とて分析されています。この中で注視したいのが「人的資源」においてスウェーデンが1位となっている点です。国民一人ひとりの育成とその後の活躍状況がここからも見て取れます。

また、2017年に発表された世界若者幸福度指数によると、スウェーデンは総合指数で29か国中1位とランク付けされています。これは簡単に言うと諸外国と比べて教育の項目で高い評価を受けているということを意味しています。

この指数は世界中の多くの若者たちが、その潜在能力を十分に果たせていないことを背景に、その状況を脱すべく、彼らが世の中に貢献できる機会を増やすため、また世界中の青少年の功績とその格差を包括的に把握するために「男女平等」「ビジネスチャンス」「教育」「健康」「国民関与」「安全と治安」「情報及び通信技術」の7つの分野から調査されているものです。



より良い社会を構築するためのスウェーデンの教育



スウェーデンは1842年に7歳から13歳までの子供たちに対して、どこの国々よりも早くに義務教育を導入しました。早い段階から国民全体の教育レベルを高めることを目指し、その後の高等教育と研究に対する官民一体の長期的な取り組みは、イノベーションに大きな影響を与えています。

スウェーデンでは子供が18歳になると親の扶養義務がなくなるため、10代後半で親元を離れる若者が多くいます。将来の方向性が決まっていない学生は、高校を出て必ずしもそのまま大学へは行かず、1年間世界中をバックパックで旅したり、まずは仕事を始めたり、様々な経験をして自分の将来を考えます。スウェーデンの基礎教育は全て無償なため、例え大学へ行ったとしても生活費と教材費を負担する程度です。そしてこの費用のために国のローン制度を利用することができ、ローンの一部は返済する必要がありません。

さらにいくつになっても大学に入ることができ、人生設計をやり直すことが可能です。このような教育システムが成立していることと、国が教育(職業訓練も含む)に投資をして国民を高いレベルに育て上げ、それぞれの個性を生かしながら、各々が自分の意思で自身の人生を切り開き、居場所を見つけ、希望ややりがいを見出すことができる社会という点が、世界若者幸福度指数でトップになった理由の一つであり、欧州イノベーション・スコアボードの「人的資源」において1位となった要因ではないかと考えられます。



学ぶ環境が整ったウプサラ大学の構内
クレジット:Magnus Liam Karlsson/imagebank.sweden.se



広大で雄大な大自然の中で日々の生活を営むスウェーデンの人々は、自然とともに生きることが生活の豊かさに繋がると考えています。厳しい自然を有するが故、その思いは強く、自然の脅威と偉大さを深く理解しています。そんなスウェーデンにおいて、自然教育は最も重要なものであり、自然を通して社会人としての人間性が育成されると考えられています。



幼稚園や小学校では近くの森へみんなで出かけ、自然から様々なことを学ぶ時間があります。森の中では好きに駆け回ったり、木に登ったりして遊ぶのですが、命に危険が及ばないよう先生は遠くから見守るだけです。落ち葉に戯れ砂だらけになる子もいれば、比較的高い場所からジャンプする子もいますが、先生は何も言いません。危険なことも自然との関わり方も全て身をもって理解させます。一通り遊んだら今度はみんなで自然享受権について、子供同士で対話させます。先生は可能な限り答えを言わず、出来るだけ全ての生徒に回答する機会を作ります。

自然教育から様々なことを学ぶ子供たち
クレジット:Emelie Asplund / www.imagebanksweden.se



昼食時間も一つの学びとなり、例えばサンドイッチを包んできたラップや紙は回収して持ち帰り、飲料パックはリサイクルに回すことを教わります。森にゴミを捨てることで、動物の怪我になるかもしれず、頭に袋をかぶって息ができなくなるかもしれない、そんなことを子供達は知るのです。

また、自宅からお弁当を持って森へ出かけたとき、例えばある子供が先にそれを食べてしまったとしても、そのことを真っ向から否定しません。その子供はみんなが食べている時に自分だけ食事がなく、居心地の悪い思いを経験します。その子は次に森へ出かける時、ちゃんと自分で考えて、みんなと同じ時間にお昼を食べるようになるという具合です。もしくは半分先に食べて、残りの半分をみんなと一緒に、という子供も出てくるかもしれません。自然教育を通して自立を促しながら主体性と協調性を持たせ、責任や平等、義務と権利を教え、自然への敬意と我々人間はそれらの恩恵を受けているという心持ちを伝えているのです。

基本的に民主主義の価値観がしっかりと根付いている北欧では、人は皆一人の人間として同等の価値があるという哲学が浸透しています。それは子供であっても子供扱せず、一人の人としての権利があるということを意味します。子供は社会からの預かりもので、親の私物ではないという発想です。

どういう道を選択し、どのように生きていくか、それは本人が決める事で、自分自身でその目標に向かい、自身の足で歩んで行くという人間育成は、本当の意味での自由を教えています。一人ひとりが納得をして生きられるこの教育こそが、世界若者幸福度指数の高評価となり、イノベーションを生み出す人的資源の形成に繋がっているのではないでしょうか。