サステナビリティの原点-自然との密接な関係 2021/08/31

Stories of Sustainability vol.1

MANABU[まなぶ]
Stories of Sustainability
スウェーデンなど北欧諸国をはじめ各国のサステナビリティな文化慣習や、取り組みをお伝えするのが「Stories of Sustainability」。未来を変えていくアクションやヒントを“まなぶ”。



クレジット:Patrik Svedberg/imagebank.sweden.se



自然はみんなのものというスウェーデン独自の権利とは?



スウェーデンは雄大な自然に囲まれたスカンジナビア半島に位置する人口1,000万人ほどの国です(東京の人口約1,400万人)。南北の距離は約1,600Kmと細長く、北は北極圏に属します。日本の1.2倍ほどの国土面積がありますが、その内約80%は森林、山岳、湖、河川、高地が締めており、都市圏であっても自然との物理的距離が近く、誰もが日常的に自然と密に接しています。そのためスウェーデンの人々は自然との深い関係をずっと昔から大切にしてきました。そしてその壮大さと厳しさを身を持って理解し、それらが有限であることを心得ています。自然との距離感が近いことが豊かな暮らしに繋がるとされており、自然に対する関心は彼らの意識の中に深く根付いています。1970年代以降、スウェーデンが世界のどの国々よりも早く、自国のみならず世界中の自然を保護する活動に着手し、リーダー的役割を果たしてきた理由もここにあります。

スウェーデンには自然をみんなで分かち合うという慣習法上の市民権「自然享受権(Allemansrätten =アッレマンスレッテン)」というものが存在しています。この思想は古代から同国に浸透していたと考えられており、1940年に概念として定着し、1994年に憲法に定められました。この権利によって自然の中に存在しているものを誰もが享受でき、例え個人が所有する土地であっても自由に立ち入ることができます。釣りに関しては一定の規則がありますが、基本的にはそこに生息するものを届出なしに採取してかまいません。そのためスウェーデンの人たちは森の中で年中自由に散歩をし、春になると季節の花を摘み、夏は湖で泳ぎ、秋になるとブルーベリーやキノコ採りをして自然の恩恵を受けながら、時にはそれらを売って生活の足しにすることもあります。



多くの親は、子供たちにとって素晴らしい遊び場であり、くつろぐのに良い方法であるため、自然の中で家族の時間を過ごすことを楽しんでいます。
クレジット: Alexander Hall / imagebank.sweden.se



スウェーデンの森の中には散歩中に一休みできる小屋やベンチが所々に点在しています。それらの近くには焚き火やバーベキューができる設備が備わっており、道の途中で拾った落ち葉や木片で火をくべ、持参したソーセージを焼いたり、お湯を沸かしたりすることが可能です。土地オーナーの計らいで隣接するサウナを自由に使うことができる場所も時折見かけます。



北極圏ラップランド地方では、白夜の中でトレッキングとキャンプを楽しみます。
クレジット:Tomas Utsi/imagebank.sweden.se



6月下旬の夏至の時期、スウェーデン北部ラップランド地方周辺では、真夜中になっても一日中太陽が沈まない白夜の現象が続きます。背の低い山々の稜線から薄明るい空へと陽光が放たれ、まるで夕焼けのような美しい光景が広がります。そんな幻想的な景色の中で深夜にトレッキングを楽しむという遊びがあります。そして好きな場所でテントを張り、身体を休めながら自然に身を委ねるのです。

9月後半から10月はムース(ヘラジカ)ハンティングの季節です。北極圏に近いエリアでは狩猟解禁になるとライセンスを持つ狩人のチームが結成され、森の奥深くの狩場領域中心に早朝5時ごろ集結します。まだ辺りは真っ暗闇の中、焚き火の火で周辺を照らし、地図を見ながらチームリーダーがそれぞれの定位置を決めていきます。各自指定された場所に到着すると、高さ3メートルほどの火の見櫓のような見張台でムースをひたすら待ち続けます。ムースが発見されるとトランシーバーに連絡が入り、指示されたものから順に銃を鳴らして四方を取り囲み、徐々に囲いを縮めながら追いつめて射止めます。そして村が所有する小屋に持ち帰り、数日血抜きをした後に解体作業を行います。それらはほとんど市場に出回ることはなく、村の人々の冬の蓄えとなります。自然の恵みに感謝をしつつ、捕獲した貴重な命を自分たちで大切にいただきます。昔から培われてきた生きるための風習であり、生息数の増加にともなう植生の保護にも繋がる持続可能な活動でもあります。

もちろん自然享受権にはマナーやモラルが重要です。この権利の基本原則は責任をともなう自由です。その土地や木々などに害を及ぼしたり、土地を壊してはならず、絶滅危惧種の植物や動物を採取したり捕獲することはできません。決められた場所でのみ焚き火が許可されており、離れる際は完全に火を消さなければなりません。ゴミは必ず持ち帰る必要があります。誰かのプライベートに入り込むような、例えば柵がないからと言って他人の家の中を窓から覗き込むようなことは言語道断です。土から顔を出したキノコは採っても良いのですが、木になっているキノコの採取は禁止されているなど、この権利には自然を守るための決まりが存在します。人々は正しい知識を身につけ原理原則に従う必要があります。そしてそれは小さい頃か家庭や幼稚園、学校で教わり、ごく自然にその感覚を養っていきます。

自然はみんなのものであるという思想と権利を通じて、スウェーデンの人々は自然資源に限りがあるということを深く認識し、我々人間は自然に招かれた来客であると自覚しています。スウェーデン社会全体が長い間歩んできた自然との深い関わりが、持続可能な社会を構築する基盤となっているのです。