A SUSTAINABLE LIFESTYLE 2023/12/20

#09 服部雄一郎・服部麻子|文筆家

A SUSTAINABLE LIFESTYLE
電気自動車で旅をして、興味深い生き方をしている人たちに会いに行く。
西へ東へ、それぞれの持続可能なライフスタイル





文筆家/服部雄一郎・服部麻子

はっとり ゆういちろう・はっとり あさこ ともに1976年、神奈川県出身。2014年に高知に移住しエコな暮らしを実践中。著書に『サステイナブルに暮らしたい』他。雄一郎の翻訳書に『ゼロ・ウェイスト・ホーム』『土を育てる』他



きっかけはゴミ問題



 すべてはゴミから始まった。服部雄一郎・麻子夫妻が現在のミニマムな生き方を指向するようになった、決定的な理由のことだ。


 若かりし2人は東京で大いに仕事し大いに遊ぶ、多忙な日々を送っていた。が、30代を前にして子どもができ、少しスピードを緩めた生活をと神奈川県葉山市へ移住。そこで雄一郎が仕事に就いた町役場で配属されたのが、ゴミの担当部署だった。


 当初はまったく興味がなかったゴミ問題だったが、いざ向き合うと思いのほか興味深かった。もっと突き詰めて学びたくなり、カリフォルニアの大学院に家族ごと留学。その後、廃棄物NGOの仕事でインドのチェンナイに滞在。世界的に有名なエコビレッジ、オーロヴィルを見聞したことにも大いに刺激を受けた。


 それらの経験は2人のライフスタイルに変化を促した。そして「もっとサステナブルに暮らす」べく、帰国後、高知県の山麓に移住したのだ。そして現在、庭で自生や栽培する野菜や植物を活用し、近隣とのお金を介さない豊かなやりとりにも彩られたピースフルな暮らしを満喫中だ。





サステナブルな設えに



 7年間の借家住まいを経て、土地を購入し、自邸を建てたのは3年前。


「できるだけ身軽に生きたいと思っていたし、環境意識という面でもマイホームが欲しいとは思っていなかった」(雄一郎)が、諸事情あって新築することに。


「でも、我が家のニーズに合わせるというよりは、人に手渡せる家、つまり住み継いでいくことを念頭に置いたんです。住宅のゴミはすごく多いそうなので、簡単にゴミにならないように、100年のスパンで長持ちする、普遍的な価値を持つ家を目指しました」(麻子)


 ただし、メンテナンスにせよ、なんにせよ、その場しのぎの対処はせずに済むこと。この先どう使っていくかを考えること。持ち家だからこそ得られた視点もあったようだ。


 殊に、ゲストハウスなどにもできるようにと母屋の隣に建てた小屋はほぼプラスチックフリー、オフグリット仕様。断熱にはウールを詰め、雨戸はサッシではなく木製、網戸の網は金網製。なるべくゴミを生み出さないための工夫が随所に。それはリサイクルのポリカーボネートで出来たダッシュボードとフロントドアのデコパネル、ペットボトルの再生素材のフロアカーペット、レザーフリーのマイクロテックのシートといった、ボルボXC40のインテリアとも親和性がある。



庭の生ゴミコンポスト。生ゴミと土を交互に入れるだけで良質な堆肥に



将来を見据えてのポテンシャル



 田舎では1人1台クルマを持つのが当たり前のなか、服部家は少しでもミニマルにすべく、現在所有しているのは1台だけだ。


「クルマは生活にどうしても必要だからこそ、電気自動車にシフトできたらすごくいいとは思っているんです」という雄一郎の言葉を受け、「高知は特にガソリンが高いから、ダイレクトに家計に響くという現実問題もあります」と麻子。


「都市部だったら絶対カーシェアリングがいいと私は思うんですけど、誰に何が必要かというのは、その人の暮らしによってすごく変わってきますよね。でも何より、化石燃料はもう終わりという1点において電気自動車はいいですよね」(麻子)


「ボルボのクルマとしてのクオリテイとデザイン性の高さは、やっぱり非常に魅力的。そしてEVが現時点で環境にとってベストかどうかはわからないけれど、でもこの先、絶対もっといい方向に向かうはず。というか、向かってくれなくては困ると思っているので」(雄一郎)


 クルマは毎日のように使う道具であるだけに、再生素材の使用やエネルギー効率については個人の生活、ひいては地球の環境に深く関与する。そして確かに現時点では、EVは環境に対する完璧な解決法ではない。走行時はゼロ・エミッションでも、発電の際にCO₂が発生することへの批判的な意見もある。だがそれに対しては、家の電気契約を再エネに切り替えることで改善可能だ。また、そもそもバッテリーを生産するのに大量のCO₂を排出している現状に対しては、ボルボは既に取り組みを始めており、本社工場の横に再エネ稼働の電池工場を建設中だ。そこで生産された電池を搭載したクルマであれば、アルミや鉄の再生素材の使用量を高めることと併せ、生産時にもCO₂排出量を減らし、カーボン・ニュートラルにより近づけられる。これらは近い将来に実現する具体策。ということは、現状は完璧ではないとしても、近い将来、電気自動車には人々の生活に、そして地球の環境に、大きな影響を及ぼすポテンシャルが秘められているといえる。



買い物は社会的アクション



 料理好き、おいしいもの好きの夫妻にとって食べることは、若い頃から生活の中心にあった。今では考えられないことだが、東京で生活していた頃はデパ地下や高級スーパーで贅沢に食材を買うことも少なくなかったという。


 だがある時、友人宅で振る舞われた野菜がとてつもなく美味で、聞けば添加物や農薬使用に厳しい基準を設けた店から取り寄せているとのこと。それから友人の真似をして食材を買うようになった。


「最初は完全に利己的に、純粋においしさを追求したまでのこと。でも、購入する際に無農薬、無添加、オーガニックといったポイントがあることを知った。それをきっかけに、選択して買い物をするという習慣が身についたんです」(雄一郎)


 特に「気持ちのいい出費が増えてきた」と実感できたのは大きかったという。レシートや通帳を見返して、このすべてが嬉しい買い物だったなと思えることの満足感は他に代え難いものがあった。


「買い物は投票だという考えは当時はまだ持っていませんでした。でも、この嬉しい出費を増やせば増やすほど、自分はより幸せになれるんだなと思ったんです」(雄一郎)


 必ずしもエコでなくても、オーガニックでなくても構わない。何かしら自分で選ぶというワンステップを踏むことにこそ、価値があるのだ。



それぞれの守備範囲で



VOLVO XC40 RECHARGE PURE ELECTRIC 車両本体価格¥6,790,000〜。www.volvocars.com/jp



 「買い物は個人でできる社会的アクション」が信条の服部家では、理念をしっかり持ったメーカーの製品を買いたいとつねに考えている。


 田舎での人間関係の特徴は、郵便局員からスーパーの社長から、日々の生活で関わる人の多くが知り合いだということ。夫妻の住むエリアは特に人間が人懐っこく、あけっぴろげでよく話し、よくシェアする。それはしがらみと表裏一体ではあるものの、見知った顔と構築する関係性が日々の安心感や納得感を生むのも確かだ。


 一方、大企業がつくる製品はその規模から、生産に携わる1人ひとりの顔まではなかなか見えてこない。だが事業を透明化することで、理念を含めて消費者に伝えることはできるはずだ。


「大きな組織は、素材、人、お金が大きく動く分、活動がもたらすインパクトも大きい。大企業、そしてその対極にいる個人。立場ごとに守備範囲は違っていて、組織ができることは個人ではできなかったり、その逆もまた然り。それぞれの場所で、それぞれができることをするのは大事だと思います」(麻子)


 ボルボはたとえば労働問題への取り組みのひとつとして、自社だけでなく、サプライチェーン(原材料の調達から製造、販売、消費までの連鎖)全体に配慮している。電気自動車のバッテリーに使用するコバルトなどいくつかの希少鉱物に関し、ブロックチェーン技術を採用してトレーサビリティ(サプライチェーンを追跡可能にする仕組み)を実現しているのだ。


「希少鉱物にまつわる労働問題は僕も興味があって調べていますが、さすがボルボはスウェーデンの企業ということもあり、そこも目を向けているんですね。クルマが環境配慮の対応を迫られる度合いはますます大きくなり、これからもっと変化し、消費者にとって見分けやすい情報が出てくるのが楽しみです」(雄一郎)


 自分の予算、他人も含む安全性、そして地球全体への環境負荷の度合いまで広がる尺度を包括しての、自分のベストチョイスとは、なんだろう。お金の使い方次第で自らの幸福度が変わるだけでなく、支払い先にはパワーを渡すことになるからこそ、自分たちなりの選択にはいつも意識的でいたい。


「SWITCH VOL.42 NO.1より転載」



PHOTOGRAPHY: KATO JUNPEI TEXT: NOMURA MICK