A SUSTAINABLE LIFESTYLE 2023/11/20

#08 鈴木鉄平|micotoya houseオーナー

A SUSTAINABLE LIFESTYLE
電気自動車で旅をして、興味深い生き方をしている人たちに会いに行く。
西へ東へ、それぞれの持続可能なライフスタイル





micotoya houseオーナー/鈴木鉄平

すずき てっぺい 2010年、友人の山代徹とともに「青果ミコト屋」始動。全国の農家をキャンピングカーで巡りながら野菜を仕入れ、宅配や卸し、イベント出店など従来の八百屋の枠を超えて活動する。2021年、神奈川県青葉区に実店舗『micotoya house』をオープン



社会に役立つ選択



「クルマは自分の一部なんです」


 C40を運転しながら、鈴木鉄平はそう言いきった。北は北海道から、南は沖縄の宮古島まである取引先の農家を訪ねる際にも、飛行機や新幹線は極力使わない。移動手段は、大好きなクルマが常だ。


「でも、僕たちが野菜を運ぶ時、旅をする時に、移動でエネルギーを垂れ流しているということに対しては正直、矛盾やストレスを感じてもいるんです。八百屋という仕事は、無駄のうえに成り立っている商売。全国で生産された野菜を、エネルギーを使って運搬する。つまり、運賃をかける上に鮮度もロスするわけでしょう?だからせめて、自分の消費が社会のためになっていると思えるような選択ができると、気持ちがいいですよね」





不要だったものに新たな価値を



 2010年、友人と二人で立ち上げた「青果ミコト屋」のコンセプトは、「旅する八百屋」。全国をキャンピングカーで巡りながら、自分たちが“惚れた”農家のつくる野菜を仕入れ、個人宅への宅配、飲食店への卸し、イベント出店と、敢えて拠点を持たないスタイルで活動してきた。


 そんななか2021年、ミコト屋初となる実店舗をオープン。


「各地を訪ね、ローカルに根ざしてそこでしかできない表現をしている人たちに会うほどに、彼らへの憧憬が高まっていったんですよね。僕たちはいつも迎えてもらう側だったけど、みんなを呼べる場を自分たちでもつくりたくなったんです」


 売り場を持つことで、農家の“想定外”に応えられるようになるという目論見もあった。


「農家はイレギュラーの連続です。天候に左右されて余剰に収穫できてしまうなど、商品として問題ないのに廃棄せざるを得ない事態になることもよくある。でも宅配と卸しだけでは、あらかじめもらっている注文分以上は引き取ることができません。そのことにずっとフラストレーションを感じていました。店があれば、想定外の仕入れにもフレキシブルに対応できるようになります」


 アイスクリーム店『KIKI NATURAL ICECREAM』を併設したのも同じ考えから。たとえば売れ残ってしまったり傷ついてしまったりした野菜や果物でも、加工すれば無駄にせずに済む。


「何よりアイスクリームはポップな存在なのがいいなって。ダイレクトに野菜でフードロスのことを伝えるのはちょっと重たくなるかもしれないけれど、アイスなら、かわいい、おいしいって、カジュアルに楽しんでもらえるんじゃないかと」


 廃棄になるはずだったものも、見方を変えれば別の価値が生まれる。たとえばこの日に提供していたフレーバーのひとつは、熟成が進んで割れてしまったラズベリーだった。農家はそういった青果を抱えてしまうことがよくあるが、売り先はなかなかない。ミコト屋はそんな知らせを受けると、よし来た、とばかりに送ってもらい、アイスに加工する。


「だから、ひと月先にどんなアイスを開発しているか、自分たちでもわかりません。でも、この食材をどうおいしいアイスにするか考えるのは、面白い点でもあります」


 客に楽しんでもらうためにはまず、自分たち自身が楽しめるかが大事。心地良く、楽しくやらないと広がらないし、続かないと思うから。



フードロス対策のひとつとして始めた“まかないランチ”は今や名物に



求めたいのは人間くささ



 鈴木が古いクルマを好きなのは、自分で運転しているという実感が持てるところだ。対して、多分にオートメーション化されている現代の自動車、特に電気自動車には少し味気ないイメージを抱いていたという。


「だけど、モーターによるリニアな加速感や、ワンペダルドライブでアクセルをちょっと緩めるとブレーキが少し利く、といった微調整を自分の感覚で行えるところなど、“操縦している感”がきちんと保持されているのがいいですね」


だからC40を運転するのは楽しい、と鈴木。


「ちょっとした温度感というか、人間くささみたいなものは、本能的にみんなきっと好きですよね。僕たちが扱っている野菜だってそう。野菜にも畑にも、つくり手の人柄が出るんですよ」


 鈴木の運転するC40は、衣川晃さんが営む茅ヶ崎の「八一農園」へ向かう。こうして取引先の農家を訪ねることは相変わらず、鈴木が大切にしているライフワークだ。途中で、「あ、僕、これから出ますって晃さんに一報を入れるのを忘れてました」。そんな時でも慌てなくて大丈夫。C40はクルマ自体がネットに繋がっているため、搭載されているGoogleの機能を使って、運転しながら「OK, Google,晃さんに電話をかけて」と話しかけるだけで、連絡が取れるのだ。


 やがて農園に到着。茅ヶ崎といえば海を思い浮かべるが、このあたりは田園風景が広がっている。八一農園は、無農薬無肥料、不耕起栽培。草がたくさん生えているワイルドな畑には、落花生、ケール、カブ、だいこん、空芯菜、なす、ブロッコリーなど、様々な野菜がのびのびと育っている。


「耕運しないので、土の構造が壊れず、微生物が豊か。環境を“守る”より、もっと積極的に“再生”させる農法です。地球温暖化の緩和策として、世界的に注目されているんですよ」


 衣川さんはそう言いながら、畝からカブを抜いて手渡してくれた。口に運ぶと力強く、それでいてえぐみのない、濃厚な味。それは、ミコト屋の扱う野菜全般に通じる特徴でもある。



計り売りという仕掛けの効果



 自分で野菜を選び、自分で重さを計り、自分で重量を紙に書き、レジに持っていく。会計が済んだら、自分で梱包する。ミコト屋では、客が野菜を購入するまでにたくさんの工程を経る必要がある。言い方を変えれば、「かなり面倒くさい」。


「でもその分、野菜との距離が縮まって、愛着が湧いてくる。プラス、おいしく食べる調理法とか、生産地や生産者の話をスタッフがするので、そうした言葉を浴びて買って帰った野菜は、おいしく食べよう、丁寧に料理しようという気になると思うんですよね。そうすると、冷蔵庫に放置してダメにしちゃうなんてことも減ってくるはず。計り売りは、家庭でのフードロスを減らす仕掛けでもある。だから、ミニトマト一個からでも買えるようにしています。それによる商売的なデメリットは……考えたことはないですね」


 今や、会話をせずとも買い物はできる。ひとことも話さなくても生きていける世の中になっている。だからこそ人と人との接点を増やす機会をつくりたいのだ、と鈴木は言う。


「うちは話さないと買い物ができない仕組みになってますから(笑)。でも、駅から遠い、わざわざ来ないといけないような立地のお店だし、そういう面倒なお店がひとつくらいあってもいいんじゃないかなって」




サステナビリティの入り口に



VOLVO C40 RECHARGE PURE ELECTRIC 車両本体価格¥6,990,000〜。www.volvocars.com/jp



 昨年から新たに始めた料理の提供も好評だ。


「余った野菜の受け皿としてのアイスだったわけですが、実際に店を始めてみると、野菜が少量すぎて逆にアイスに出来ない、なんてこともありました。僕たちはもともと売れ残った野菜でまかないを食べていたので、その延長で始めたのが週一回の“まかないランチ”です。そのうちお客さんが増えてきて、すると仕入れるべき野菜の量も増え、結果的に、週一回ではさばききれずに野菜をロスしてしまうことも。それで、今は週五ペースでまかないランチをやっています(笑)」


 小学生からお年寄りまで、客の年齢層は幅広い。平日は近所の人たちがメインで、イベントを開催する週末には他所からの客が増える。


「純粋においしいとか、野菜を買うたびにプラスチックのパッケージはいらないんじゃないかとか、袋や容器は持参すればいいよねとか、いろんなことを感じてもらえると思うんです。環境意識が高くない人でも、ふらっとうちの店に来て、こういうのって意外にいいかも、と心地良さを覚えてもらえたら。それが、オーガニック、フードロス、プラスチックフリー、カーボンニュートラルといった、サステナブルな志向にアクセスするポイントになると思うんですよね。ミコト屋が、その入り口になるといいなと思っています」


「SWITCH VOL.41 NO.12から転載」



PHOTOGRAPHY: ABIKO SACHIE TEXT: NOMURA MICK