A SUSTAINABLE LIFESTYLE 2023/10/20

#07 玉木新雌|有限会社 玉木新雌代表

A SUSTAINABLE LIFESTYLE
電気自動車に乗って、興味深い生き方をしている人たちに会いにいく。
西へ東へ、それぞれのサステナブルライフ



有限会社 玉木新雌代表/玉木新雌

たまき にいめ 福井県出身。2004年、大阪にてtamaki niimeを立ち上げる。後に師匠となる播州織の職人と出会う。2006年、有限会社 玉木新雌設立。2009年、播州織の産地、兵庫県西脇市に移住。現在、兵庫県に2店舗の直営店を展開中



新進気鋭のデザイナーと地場産業





 兵庫県のほぼ中央に位置する西脇市。地場産業である播州織の歴史は200年超。江戸時代に農家の副業として発展し、戦後には国内の先染織物のシェア7割を占めていたほどだったが、全国の地場産業の例にもれず、最盛期当時ほどの勢いはさすがに今はない。が、ここに新しい旋風をもたらしたのが玉木新雌だ。


 自身のファッションブランドを立ち上げていたデザイナーの玉木はそもそも、織りや染めの知識や技術は持ち合わせていなかった。ましてや西脇市や播州織との接点もなかった。だが2004年、播州織のある職人との出会いが玉木の運命を変える。先染めの経糸(たていと)と緯糸(よこいと)をランダムに織り上げるゆえ、布地なのに一点ものであるその特異性に触れ、自身のクリエイティビティが発露したのだ。


「それまでも自分のイメージしたものを服という形にはしていたけれど、一から、つまり生地から自分のアイデアでつくれるんだとわかって、これは面白い!と」


 かくして、“tamaki niime”は播州織を核とするブランドとなっていく。





すべてを自分たちの手で



原料となるコットンの一部は、2014年から自分たちで無農薬栽培をしている



 西脇市のかつて染色工場だった場所に、tamaki niime のLab(工房)はある。この敷地内で、糸が染められ、すべての生地が織られ、全作品がここで生産されている。それだけではない。原料であるコットンの栽培や、羊(ウール)の飼育の試みも行われている。原料がどうつくられ、どう加工され、どう作品になるのか。全工程が同じ場所で貫徹していて、tamaki niime のクリエイティブすべてがつまびらかなのだ。


 しかも顧客は併設された店舗だけでなく、Labにもフリーで入ることができ、職人と話したり、撮影したりすることも自由。自分が購入する作品の制作工程のすべてに、直接アクセスすることができる。


「始まりから終わりまで、すべてを自分たちでできたらいいなと思って。昔はそれが普通だったんですって。自分たちが必要なものは食べものも含め、自分たちですべてまかなっていた。播州織の製品も自分たちで売りに行っていたそうです」


 現代は分業化、効率化が進んだ仕組みのうえに産業が成り立っている。そんな状況の中で、昔のやり方に戻るのは簡単ではないだろう。


「でも、今の仕組みだけでは地場産業は持続していけない。そんな中、大量生産ではない方に向かおうとするブランドがあってもいいはず。うまく行くかはわからないけれど、少なくとも、やってみる価値はあるんちゃうかな」


 時代と逆行するようなtamaki niime のものづくりは、1965年製のビンテージの「ベルト式力織機」を手に入れた時が原点になっているともいえる。2010年のことだ。


「私が求めていた風合いの生地を織るには、ゆっくり織る古い機械じゃないと実現できないとわかって。当時使っていた新しい機械は効率重視で開発されたため、スピーディにたくさん織ることはできても、ふんわりとやわらかな仕上がりにはできなかったんです」


 播州織との出会いに続く、tamaki niime の第二のエポックメイキングな出来事だった。職人に頼まずに自身で、古い機械を使って生地を織ること。そして作品は、一点もののショールで勝負しようと決断できたこと。それは「これだったら、他にはないオリジナルなものが出来る」と確信できた瞬間でもあった。



美しくあるということ



「西脇の山の稜線に、車体のセージグリーンがぴったり」


 ボルボXC40を見るとまず、玉木はそう洩らした。そして、ナビの目的地を設定するのも、車内温度を上げ下げするのも「OK,Google」に続いてやりたいことを話しかけるだけでいい“インフォテイメントシステム”がいたく気に入った様子だ。


「クルマとスマホが最初から一体になっているんだから。めちゃくちゃ便利ですね、これは」


 普段、高速道路ではすべての窓を全開にして、大音量で音楽をかけながら運転するという玉木。「音が良いだけでなく、ボリュームを最大にしても音が割れないのはすごい!」と、好きな久石譲作品を音声でリクエストし、大興奮。


「変な言い方ですけど、クルマじゃないみたい。エンジンをかけて、シフトをドライブに入れて……と、クルマに乗る時ってやることがいっぱい。そういう時にナビの設定や音楽の選曲など他の操作で気が散ることなく運転に集中できるというのが、すごくいい。移動手段というよりも、快適に過ごす空間という感じ。エンジン音がなくて静かだからか、よりリラックスできますね」


 エコや環境に配慮した商品は、それを売り文句にするあまり、デザイン性が二の次になっているものも多い。だが、ものを欲しいと思う動機はあくまでもデザイン性の良さであってほしい、と玉木。


「美しいほうが心地良い。たとえばこのクルマには、本革シートの代わりにウールブレンド生地の素材を使っているけれど、決して安っぽいどころか、むしろ高級を感じさせる。ごてごての足し算ではなく、引き算の美学にも共感します。サステナビリティとプレミアム性は両立できる、そこに挑戦していけるということが実証されている。私たちものづくりに関わる経営者も、そういうふうにできるし、していかなければ。このXC40に触れることで、そんなマインドセットがされるのでは」



実体験から得る感覚を信じて



VOLVO XC40 RECHARGE PURE ELECTRIC 車両本体価格¥6,790,000~



 日々の暮らしにまつわるものすべては、ものづくりにつながっている。だからこそ、自分の身のまわりはすべて、自分たちでつくったもの、自分たちが納得の行くもので満たしたい。そんな思いからできることをひとつひとつ増やしていった結果が今、生活と仕事がひとつになった tamaki niime の唯一無二のスタイルとなっている。


「そう、全部つながっているんですよね。たとえばコットンの栽培って普通は大量の枯葉剤を使いますけど、それって環境にもよくないし、第一、散布する自分もそれを吸ってしまう。単純にそれは嫌だな思います」


 無農薬でコットンを栽培するのは実際、骨の折れる大変な仕事だ。しかし、だからこそありがたみを感じ、丁寧に使おうという気持ちにもなる。知ることで、価値観は変わる。それならばその可能性を、スタッフにも顧客にも知ってもらいたいから。


「不健康な人がつくると、不健康なものが出来てしまうと思う。人間がどういう思いで何をつくるかで、いい作品にも、ゴミみたいなものにもなるでしょう」


 だから玉木は、まずは人をどう健康にするかをずっと考えている。


「動物たちと暮らしているのも、繊維として欲しいというだけでなく、スタッフのためでもあるんです」


 動物の世話を通して、まわりへの気配りを現場で感じとる力が育まれれば。そんな狙いもあるのだ。


「互いに思いやれる関係の中で、若い人から年配の人まで、いろんな世代がいる、刺激し合える場をつくりたいんです。老人ホームと子ども園を別々につくるということではなくて、仕事をするにしても、遊ぶにしても、いろんな世代が同じ場所にいて、うまくミックスしていくのが理想だと思います」


 そして、人に多様性が必要なのと同じように、アクションにも多様性があったほうがいい。だから会社に人がどんどん入ってきてほしいし、外でやりたいことができたならば、どんどん卒業していってもほしい。


「せっかくノウハウを蓄えた人が出ていってしまうのはもったいないとよく言われます。でも、新しく入ってきた人が面白いことをしてくれればそれでいいじゃない、と思う。循環しないと、うちのキャパにも限界が出来てしまう。新陳代謝しながら切磋琢磨したほうが、いいクリエーションができるでしょうから」


 行動を起こすのは、大なり小なり面倒なことだ。しかも、それが成功するかどうかわからないリスクもある。でも、体験こそが意味のある、大事なことだと玉木は考えている。


 ファッションのブランドが、動物と暮らし、米づくりをし、人が集まる場をつくる。そんな点と点を取り出す限りは、それらがつながりをもっているとはにわかに思えない。ブランドを立ち上げた当初は玉木本人でさえ、今のようなあり方は夢にも思っていなかったはずだ。だがその実、玉木が考え、実践していることは、はじめから今日まで、一度もぶれてはいないのだ。


「SWITCH VOL.41 NO.11から転載」



PHOTOGRAPHY: FUJII YUI TEXT: NOMURA MICK