A SUSTAINABLE LIFESTYLE 2023/09/21

#06 東野唯史・華南子|ReBuilding Center JAPAN代表

A SUSTAINABLE LIFESTYLE
電気自動車に乗って、興味深い生き方をしている人たちに会いにいく。
西へ東へ、それぞれのサステナブルライフ



ReBuilding Center JAPAN代表/東野唯史・華南子

あずの ただふみ・かなこ 2014年、夫婦で空間デザインユニット「medicala」結成。アメリカ・ポートランドで「ReBuilding Center」と運命的な出会いを果たした1年後の2016年、「ReBuilding Center JAPAN」を設立



理想の店の実現





 北へ南へ、全国に出向き、その土地に住み込みながら、施主とともに家の解体から竣工まで手がける。完成したら次の土地へ移り住み、また家をつくる──。20代の頃、東野唯史さん・華南子さん夫妻は、そんな遊牧民のような日々を送っていた。施主の多くが東京で出会い、地方にUターンした友人たち。当時は皆まだ若く、お金もなかった。古材を使うのは、少予算の中での必然的な工夫だった。


「現地の近所で解体中の家を見かけると、廃棄するなら引き取らせてくださいとお願いしに行って、建材を譲ってもらっていたんです」


 誰かにとっては無用でも、他の誰かにとっては役に立つ。その可能性を発見し、すくい上げることに「気持ち良さ」も多分にあった。


 そんな時にふたりが新婚旅行先のアメリカ、ポートランドで出会ったのが「ReBuilding Center」。地元の老若男女がごく当たり前に古材を見繕いに来るリサイクルショップの在り方、その自然な日常的風景にすっかり感銘を受けた二人は、日本にもこんな店が必要だ、ぜひ自分たちにやらせてほしい、と現地法人に掛け合った。とんとん拍子に話は進 み、2016年、長野県諏訪市に誕生したのが「ReBuilding Center JAPAN」(リビルディングセンタージャパン、以下リビセン)だ。





モノと思いをつなぐ媒介者



古書店やカフェなど、この数年で諏訪には新スポットが続々誕生している



 解体予定の家屋などから行き場のなくなった古材や古道具を“レスキュー”し、必要があれば修繕などを施す。販売品にはすべてナンバーが振られており、いつ、どこからやってきたものなのか、ストーリーが追えるようになっている。


「思い入れのある家や道具を手放さざるを得なくなった時、他の誰かが使ってくれるんだと思えるだけで救われる気持ちがあると思います。だから私たちがレスキューしているのはモノだけではなく、家主さんの“思い”の部分も大きいんです」


 回収した古材は販売したり、自分たちでデザイン施工を手掛けるリノベーション物件に利用したりする他、フレームなど手元に残せるかたちにつくり変えて家主への“ギフト”にすることも。誰かが大切にしてきたものを、新たな役目とともに新たな担い手に託す媒介になること。リビセンは建築建材という“ハード”を扱う事業には違いないが、もはや、それに内包される“ソフト”な活動が要になっているともいえる。



個人で環境問題に与するには



「リビセンはもともとゴミだったものを扱っているので、仮にこれを捨てたとしても、少なくとも私たちは新たにゴミを生んではいない。だからリビセンの事業は、やっていて気持ちがいいんです。スタッフとも、お客さんとも、この感覚をいかに共有するかがテーマでもあります」


 消費することが豊かさの象徴だった時代を経て、モノが飽和し、それが地球環境にも影響を及ぼすようになった今だからこそ、サーキュラーエコノミーを実践する彼らの活動は注目を集めている。


 緩衝材や紙袋など、リユースしてゴミをなるべくつくらないのをはじめ、環境に負担をかけないための試みは随所に。たとえばカフェの暖房にはペチカを採用。燃料はレスキューなどで出た古材や端材だ。夏場にはクーラーを使うが、電気は100%、屋根に設置したソーラーパネルからの発電も含めた再生可能エネルギーでまかなっている。


 そんな東野夫妻、実はボルボの電気自動車には以前から少なからず関心を抱いていたという。


「私たちにとってクルマは仕事にも生活にも不可欠。だからこそ罪悪感に苛まれない、使っていてなるべく気持ちのいいものがいいと思うから」


 再生エネルギーの電気を使えば、クルマを走行させることに対しては環境インパクトを生まずに済む。だが、たとえリビセンのように自家発電していなくても、電気会社との契約プランを再エネに切り替えるだけで、自分の使う電気をクリーンにすることはできる。エネルギー効率も、変換効率50%以下のエンジン車に比べ、電気自動車は85%ほどと高い。家で充電すれば、買った電気でもランニングコストがガソリンの約半額と、経済的メリットが大きいのも魅力だ。


 ひとりの力で環境問題に関与できることはささやかかもしれないが、自分がそれを選択している自覚と得られる清々しさは掛け値なしに大きい。アクションは、自分なりのレベル、自分なりのサイズで起こせばいいのだ。


 ボルボはこれまで長らくクルマの安全性能を旗印にしてきたが、地球環境を守ることこそが人の安全に直接つながる、と大局的な視点にシフトした。クルマの製造段階から環境負荷をなくすべく、2040年までにクライメートニュートラルを達成しようとしている。プロダクトのクオリティは大前提として、自分が共感できる姿勢の企業を、そしてその企業がつくるものを、意志をもって選択する。それもまた、ひとりでできるアクションのひとつだ。



「気持ちいい」の波紋を広げる



 これまで個々の要請に応え、いくつものモノや思いをレスキューしてきたリビセン。点が線となり、活動はやがてエリアリノベーションの様相を呈してきた。諏訪における共栄共存のコミュニティ形成、平たくいえば、まちづくりだ。


「健やかな循環のあるまちにしたくて」、二人は仕事度外視で積極的に空き家を探し、家主と借主をマッチングするなどの活動をしてきた。それもやはり、自分の暮らしを「気持ち良く」するためだ。


 そしてリビセンの周囲には今、リビセンがリノベに関わった店舗が八軒にもなり、まちはずいぶん賑やかになった。小さな者同士がつながり合い、助け合う、サステナブルな地域社会のかたちができてきた。


 一方で、店が増え、訪れる客足も増え、まちに活気が生まれたからこそ出てきた問題もある。テイクアウトのドリンクカップのゴミが増えてしまったのだ。もともとゴミを生まない事業に心地良さを感じていた夫妻は一年かけて仕組みを考え、店を営むエリアの仲間たちを巻き込んで「ぶらぶらタンブラー」の取り組みを始めたところだ。


「デポジットも会員登録も不要で、どの店でも借りられて、どの店でも返却できる、地域シェアタンブラーです。サービスとしてではなく、隣人と貸し借りするようなテンションでできるんじゃないかと思って。うまくいけばゴミが減らせるだけでなく、他の店にハシゴしてもらうきっかけにもなります。一円も生まないけれど、その代わり、小さく健やかな循環が生まれる。気持ちがいいよねっていう感覚を共有できる体験がつくれると思うから」



健やかな循環を生む装置として



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「ものの循環を促す装置に、そして、よりこの町全体を楽しんでもらえる装置になっていきたい」、そう話す東野夫妻はいま、新たな企画を考案中だ。


「地方に住むデメリットのひとつに、いろんな文化に触れられないということがあると思います。私自身そういう刺激が欲しい人間なので、リビセンがその役割を担うべく、企画展やイベントをやってきました。でも周りにこれだけお店が出来て、諏訪の楽しさも十分増えてきたので、リビセンらしさにあらためてシフトしていこうと思って。リユースやリサイクルできる不用品との交換に楽しいことがあるような、ものの循環が生まれるイベントを考えています」


 七年前、ポツンとできたリビセンは、思いを同じくする仲間が集まり、共感の輪が広がり、いまや諏訪の新しい文化の中心的存在となった。


「誰かのためにと思ってがんばると手応えを感じづらいかもしれません。でも、まず自分が幸せで、それがスタッフに、友だちにと、ちょっとずつ増えていくと、無理がなくていいですよね」


 2022年秋にはリビセン、不動産屋、信用金庫の地元三社で「すわエリアリノベーション社」を立ち上げた。これまでもレスキュー活動を媒介にリビセンが内々に、そして半ば好意で手がけてきた空き家やリノベ案件の相談や紹介を、オフィシャルに請け負う受け皿ができたのだ。


 リビセンが創業時に種を蒔いたコンセプト「Rebuild New Culture」は萌芽し、茎を太く伸ばし、力強く花を咲かせている。地域の「気持ちがいい」試みはきっと、今後ますます創出されていくのだろう。


「SWITCH VOL.41 NO.10から転載」



PHOTOGRAPHY: ABIKO SACHIE TEXT: NOMURA MICK