A SUSTAINABLE LIFESTYLE 2023/07/20

#04 平田はる香|株式会社わざわざ代表

A SUSTAINABLE LIFESTYLE
電気自動車に乗って、興味深い生き方をしている人たちに会いにいく。
西へ東へ、それぞれのサステナブルライフ



株式会社わざわざ代表/平田はる香

ひらた はるか 1976年生まれ。2009年「パンと日用品の店 わざわざ」開業。2017年、株式会社わざわざ設立。2019年に「問 tou」、2023年に「わざマート」「よき生活研究所」オープン。著書に『山の上のパン屋に人が集まるわけ』(サイボウズ式ブックス)



〝好き〞から〝できること〞へ





 長野県、東御市御牧原。公共交通機関がなく、クルマで山道をくねくねと上っていかないとたどり着けない。


「パンと日用品の店わざわざ」を主宰するのは、平田はる香。2009年、浅間連峰を望む美しい景色にひと目惚れし、ここで初めての自身の店を開業することに決めた。パンを焼いて売るのも、雑貨を卸して販売するのも、もちろん起業するのも初。すべては独学で、たったひとりでつくった店だが、いまでは3億円超の年商を誇る企業に成長した。


 しかし開口一番、平田は「以前は挫折の連続の人生でした」と意外な言葉を放つ。家庭の事情や学校のルールに縛られ、振り回されて、自らの意思ではない選択をさせられることにずっと苛立ちを抱えて育ってきた。「自分で意思決定して生きたい」思いが募った時、勘当同然で実家を出て上京、20歳でクラブDJとして独立。人気イベントを運営するに至るが、自分の思い描いた成功とはほど遠い状況に嫌気が差し、27歳ですっぱりやめてしまう。


「DJは初めて見つけた夢中になれることだったけれど、〝好き〞で突き進むのはもうやめようと思いました。それよりも、自分に〝できること〞を洗い出して、人の役に立てることを考えたほうがいい、と」


 平田の徹底的に考え、仕組みを構築、実行に移すアプローチはこの時から変わっていない。子どもの頃から家の食事を手がけていたこと、ファッション系の専門学校に通っていたこと、ウェブサイトをつくる技術を持っていること、雑誌編集部でのアルバイト経験から編集や執筆ができること。ひとつひとつはプロとして通用するほど突き詰められてはいないけれど、でも、全部を掛け合わせたら何かできるのでは?-立ち上がってきたイメージは、複合的な店という形態。そう、「わざわざ」のスタイルだった。





継続は力なり



残系靴下は「わざわざ」を代表するベストセラー商品



 「わざわざ」の人気商品のひとつに「残糸靴下」がある。地元メーカーの生産過程でどうしても出てしまう、焼却処分を待つ運命の余剰糸を蘇らせたオリジナルのプロダクトだ。半端な糸同士をどう組み合わせれば在庫が効率的にはけるか、かつ魅力的な商品に仕上がるか。自身で作成した残糸の在庫表と睨めっこしながら、平田が配色を考えている。


「私はデザインしているというか、どちらかというと、余りものをきれいに使う係っていう感じですけどね」


 数年かけて2トンに及ぶ残糸はなくなり、原料不足で欠品に至るほどのヒット商品に。メーカーとの関係を長年かけて大切に築いてきたからこそ、先方から相談を持ちかけられて始まったプロジェクトだった。「わざわざ」を始めて14年。「残糸靴下」などのオリジナル商品をはじめ、取り扱い商品ひとつひとつにこうしたストーリーがあり、その先には人々との信頼関係が、ますます広がっている。


「DJをやめてしまったことを、私は当時否定的に捉えていました。でもある時尊敬するDJの方から、何年もイベントを続けたなんて素晴らしい、継続は力なりだね、と肯定的に言ってもらえて。以降、続けることを意識するようになったんです」


 そんなこともあって、〝サステナビリティ〞は、平田のお気に入りの言葉だ。
「〝ロハス〞とか〝SDGs〞とか、流行するワードは変わっても、根底にあるのはいつも〝サステナビリティ〞だなって。継続するって、やっぱりすごく大事なことなんですよ」



電気自動車と「わざわざ」の相性



 平田が電気自動車に乗るのは今日が初めて。ボルボのサステナビリティの志向は「わざわざ」と合致するはず、とかなり興味津々だ。ドアを開け、運転席に座り、シートベルトを締め、ハンドルを握る。キーを捻るまでもなくスタンバイ状態になり、シフトをDにするとアクセルを踏むだけでC40はスーッと走り出した。


「わあ、静か! あ、そうか、エンジン音がないですもんね(笑)」


 毎日、ディーゼルエンジンのクルマを運転しているという平田。出張でも使うことが多く、彼女にとってクルマは必須アイテムだ。


「スムーズな走りで、パワーがあって。運転、気持ちいいです! 通常、長い下り坂はエンジンブレーキを使用しているんですけど、C40ならワンペダルドライブを使うと、アクセルワークだけで過減速が自在にできる。ブレーキに踏み換えなくていいのもすごい楽。あと、私は運転中によく電話会議をするので、エンジン音で相手の声がかき消されてしまうことがあって。これだけ静かだと、それがなさそうなのもいいですね」


 C40は、姉妹店の「問tou」を経由して、「わざマート」「よき生活研究所」へ。今年1月にオープンした「わざマート」は、コンビニと直売所の複合型店舗。同じ東御市ではあるが山の上ではなく、今度は平地の県道沿いで、手軽に買える利便性を追求した。オーガニックやトレーサビリティなどにも実はきちんとこだわっているが、声高にそれを主張してはおらず、高品質な商品がごく普通の顔をして陳列されている。大事なのはあくまでもその手前にある「おいしい」「楽しい」というシンプルな感覚だと思うから。そんな「わざマート」を、今後10年で県内に30店舗出店したい、と平田は意気込んでいる。


 そして同敷地内にこの4月にオープンした「よき生活研究所」は、キッチン、リビングなどを備えた仮想の家空間。「わざわざ」の商品を実際に使用できる有料のショールームだ。試食や試着はもちろん、使用感や経年変化の状態が確認できるなど、消費者が納得して商品を購入するためのサービスにとどまらない。売れ残りの野菜や食品、メーカーから送られてくるサンプル商材を使って食事をつくるなど、スタッフの勉強、福利厚生、コミュニケーションの場としても機能する。


「ここは利益を生まなくていいと思っています。その代わり、私たちの意思を示し、ビジョンを語り、自由に表現する。「よき生活研究所」があることで、『わざわざ』のやっていることがかたちとして見えるようにしたいんです」


 いつもの道を走りながら、初めての電気自動車の運転に早くも慣れてきた平田。しかも「正直、電気自動車ってデザインがあまりよくないんじゃないかって漠然と思っていたんですけど、ボルボのクルマはかっこいい。内装にリサイクル素材を使っているのも好感度が上がります。うちの会社の電気はすべて再生可能エネルギーなので、再エネで充電すれば走行時に環境負荷をかけないというのもすごくいいですね!」と大いに気に入った様子。


「遠方からもお客さんがいらっしゃるし、充電スタンドを『わざマート』にぜひ設置したいです。環境インパクトの少ないサステナブルなボルボの電気自動車は、『わざわざ』のキャッチフレーズの『よき生活者になる』にもぴったりです」



よき生活者として



VOLVO C40 RECHARGE PURE ELECTRIC 車両本体価格¥6,990,000~



「わざわざ」のスタッフは現在40人弱、DEI採用を実施している。


DEIとはDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の略。20代前半からリタイアした60代までの人、障害のある人などジェンダー問わず、さまざまな年代やバックボーンを持った人たちが所属している。

「いろいろと失敗を経ての結論として言えるのは、多様性がないと絶対にいい組織にはならないということ」


 いい組織とは、崩壊せずに持続する、つまりサステナブルであることだ。自由がある中でも、ゆるやかに秩序がある。そんな理想的な組織にだんだん近づいてきている実感があるという。それならば、かつて感じていた挫折や葛藤はない? と訊ねると、「今は、もうなくなりました」と即答だった。


「それは、私自身が変化したというより、周囲の人たちが変わったから。私が理解者の多くいるレイヤーに移動できたからだと思う。セミナーやカンファレンスに参加したりと、時には気の進まない挑戦や努力もしましたけど、おかげで社会問題を解決したい企業家や、応援してくれる先輩方と知り合うことができました」


 それもきっと、「わざわざ」が長く継続していくための重要な地盤固めだ。生活、キャリア、人間関係、環境、そして未来。私たちが生きていく上でのさまざまな要素を包むサステナビリティは、「よき生活者」になるため、健やかな世界をつくるために不可欠なキーワードだ。


「SWITCH VOL.41 NO.8から転載」



PHOTOGRAPHY: FUJII YUI TEXT: NOMURA MICK