コンポストがつくる「人と土」の循環システム。 2022/07/28

#08 鴨志田 純さん|鴨志田農園 園主/コンポストアドバイザー



さまざまな出会いや気づきから、「好きなこと」「伝えたいこと」その熱意を原動力にして、自分のスタイルで発信する「人」にフォーカスします。それぞれのサステナブルへつながる、発想や取り組みを紹介します。



鴨志田農園 園主/コンポストアドバイザー/鴨志田純(かもしだ じゅん)

1986年東京都三鷹市生まれ。コンポストアドバイザー。ネパールや全国各地で、生ごみ堆肥化や有機農業の仕組みづくり等を実施中。農林水産省、消費者庁、環境省主催「サステナアワード2020」にて、アドバイザーとして関わった黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクトが「環境省環境経済課長賞」を受賞。2021年、肥料の自給性や防災機能性等を高める取り組みとして、自立分散型コンポストシステム構築向けた小規模実証実験「サーキュラーエコノミー型CSA」を開始し、各方面から注目を集める。同年、循環経済をデザインするグローバル・アワード 「crQlr Awards(サーキュラー・アワード) 」にて、「Agriculture-as-Commons Prize(コモンズとしての農業)」と「Wholesome prize」の2部門を受賞。2022年、「地域」や「地球」の課題解決に向けて挑戦する生産者を表彰する「ポケマルチャレンジャーアワード2021 〜課題に立ち向かう生産者たち〜」にて、約6600名の生産者の中から年度テーマ「一次産業の現場から、地球を持続可能に」で、最優秀賞を受賞。元数学教員。防災士。パタゴニアプロセールスプログラム。趣味は、旅(地球一周、自転車日本縦断、四国遍路等)と読書。



始まりは、ネパールから届いた1通のメール
「なぜ無農薬でこんなにきれいな野菜ができるのですか?」だった



東京・三鷹市の住宅街に囲まれた一角にある鴨志田農園。2,800平米ほどの畑で、無農薬・無化学肥料の野菜を40種類以上栽培している。6代目として農園を営む鴨志田純さんのこだわりが、良質な自家製完熟堆肥だ。生ごみや落ち葉、もみ殻などの材料を微生物の力で発酵・分解・熟成させた堆肥を、野菜の種類や用途によって使い分けている。
もともと数学教師だった鴨志田さんが農園を継いだのは2014年のこと。父親の急逝により、「畑仕事を手伝った記憶は小学6年生で止まっている」というほぼ未経験状態での就農だった。教員と農家の二足の草鞋で懸命に野菜づくりに取り組み、1年が経った頃、ネパールのウサ・ギリさんという女性から1通のメールが届く。そこには、「なぜ無農薬でこんなにきれいな野菜ができるのですか?」という内容が記されていた。





「はじめは茶化しているのかな?とも思ったのですが、メールのやり取りをしばらく続けるうち、お礼にコーヒー豆を送ってくれたんです。ネパールから日本までコーヒー豆を送るには、現地の給料10日分くらいの費用がかかります。日本でも感謝を伝える文化が減りつつある中、『なぜそこまでしてくれるのだろう』と興味がわき、ネパールまで会いに行くことにしました。実際に会ってみると、ウサ・ギリさんは、外国人で初めて日本の小学校教員免許を取得し、ネパールで学校法人を経営されている方でした」

ネパールを訪れた鴨志田さんに、現地での教育に長く携わってきたウサ・ギリさんは「ネパールで教育の段階は終わった。今の課題は働く場所がないこと」と語る。同時に、現地では大量に廃棄されたゴミの自然発火やごみ由来の悪臭(メタンガス)と汚水が社会問題化していた。両方の課題を解決する手段として、 鴨志田さんは「生ごみの堆肥化」を提案する。



鴨志田さんが直接足を運んだネパールのごみの埋め立て地の様子。



「自然発火の主因は、実は生ごみなんです。ごみから生ごみだけを取り除いて堆肥化できれば、発火のリスクを大幅に抑えることができます。ごみの自然発火(前述)と働く場所、この両方の課題を解決するために、『生ごみの堆肥化を通して有機農業を推進していきませんか』と提案をしたんです」

そして日本に帰国すると、鴨志田さんは堆肥づくりの技術を習得するため猛勉強を始めた。農林水産省から「農業技術の匠」の認定も受けている三重県の有機農家・橋本力男さんのもとに通い、完熟堆肥づくりを師事。そうやって身に付けたのが、「CNBM分類」と呼ばれる堆肥化技術だった。



地域の資源を使いながら取り組む土づくり



CNBM分類とは、堆肥の材料を炭素(C)、窒素(N)、微生物(B)、ミネラル(M)の4種類に分類し、使用目的に応じて最適な割合で配合する堆肥化技術だ。例えば生ごみや畜糞なども、CNBM分類で配合すれば腐ったり嫌なにおいを発したりすることはない。一次処理で材料を乾燥・減量(生ごみや畜ふんなどの窒素材料を腐らせずに減量・減容)させた後、さらに材料を加え、微生物の力で発酵させる二次処理を行う。二次処理での発酵温度は60℃以上になり、病原菌や雑草の種子も死滅させることができるという。完成までにかかる時間は生ごみ堆肥なら4~6ヵ月、落ち葉堆肥は1年以上だ。



もみ殻、米ぬか、落ち葉などの堆肥。60℃以上に保ち微生物の発酵・分解を促し完熟堆肥にしている。鴨志田農園では野菜ごとにベストな配合にブレンドして畑に撒いている。



「生ごみで堆肥をつくろうとすると、まず菌資材等を購入することが一般的だと思います。でも、堆肥づくりに必要な菌は、落ち葉にたくさんいるんです。CNBM分類なら、わざわざ資材を買わなくても、自分で集めた材料を使って堆肥づくりができます。
また、日本の可燃ゴミの3割は生ごみだといわれています。そして、生ごみを焼却するには1トンあたり約760リットルの助燃剤(重油)が使われています。ほとんどが水分である生ごみを燃やすために遠い異国の地から助燃剤を運び、多額の税金が投じられている。そう考えると、かなり不自然な状況ですよね。生ごみを堆肥化することができれば、そのようなムダを出さずに済み、資源循環にもつながります。何より、生ごみ堆肥でつくった野菜はとても美味しいんですよ」





「何を食べるかで人の腸内細菌が決まるように、畑に何を与えるかで土壌細菌は決まる」と語る鴨志田さん。同じ野菜でも、植物性主体の堆肥で育てるとスッキリとした甘さになり、動物性主体の材料を加えた堆肥ではコクが出るそうだ。
鴨志田さんがつくる堆肥のもう1つの特徴が、地域の20キロメートル圏内から集めた資材だけを使っていることだ。例えば近隣の公園から落ち葉を、米店や酒蔵から米ぬかを、建設現場から建設残土を、学校の馬術部から馬糞を、というように。その循環の仕組みづくりに重要なのが、“関係性のデザイン”だ。

「SNSなどを通じて、近隣各所からお声がけいただけるようになりました。堆肥技術を用いれば、落ち葉や建設残土といった地域で処理に困っているものを、資源として価値に転換することができます。意識しているのは、地産地消だけにとどまらない地域循環。5,000人に1人くらいの割合でこういった技術者がいると、日本の資源循環もうまくいくのではないかと思います」



コンポストで実現する新たな自然循環の形



堆肥づくりの技術を習得した鴨志田さんは、教員を辞め、2018年に再度ネパールに渡る。そして、ネパールで国家プロジェクトとして位置づけられた生ごみ堆肥化事業に、コンポストアドバイザーとして携わり、生ごみの堆肥化と有機農業のシステムづくりを進めていった。同時に、家庭からの生ごみ回収の仕組みをつくり、雇用を創出。今後は、コンポスト技術者を養成する学校も設立される予定だという。
コロナ禍によってネパールとの行き来が難しくなってからは、国内での活動にも注力している。代表的な取り組みが、「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」だ。熊本県の黒川温泉には約30軒の旅館があり、おもてなし文化の中でどうしても発生してしまう食品ロスの課題を抱えていた。鴨志田さんは、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんとともに、同プロジェクトのアドバイザーに就任。数軒の旅館から出る食品残さ(生ごみ)を堆肥化する実証実験を始めた。



「黒川温泉一帯地域コンポストプロジェクト」にコンポストアドバイザーとして参画。旅館の悩みの種であった「食品残さ(生ごみ)」の完熟堆肥化を進め、地域循環の仕組みづくりをサポートした。



「黒川温泉は、自然の恵み豊かな里山の温泉地です。地域の皆さんには、『環境に負荷をかけずに食品残さを処理したい』『できあがった堆肥を使って美味しい野菜を育て、再び旅館でのおもてなしに活かしたい』という思いがありました。現在は、旅館からの生ごみを使って完熟堆肥をつくり、その堆肥を近隣の農家さんに提供し、栽培した野菜でトマトジュースなどの商品を開発する、といった循環の流れが出来上がりつつあります。黒川温泉では『2030年までに旅館の食品残さをすべて堆肥化する』というビジョンを掲げているので、今後がとても楽しみですね」



都市農業だからこそできるCSA(地域支援型農業)とは



鴨志田農園では、2021年から「サーキュラーエコノミー型CSA(地域支援型農業)」をスタートした。CSAとは、消費者が農家に代金を前払いして、定期的に農作物を受け取る契約システムのことだ。鴨志田さんはこれを一歩進め、消費者と生産者が双方向につながる仕組みを生み出した。

「各家庭にはあらかじめもみ殻や米ぬか、落ち葉、壁土を予備発酵させた床材をボックスに入れてお渡して、そこに生ごみを入れてもらいます。ボックスがいっぱいになったら農園に持ってきてもらい、二次処理をして堆肥化。その堆肥を使ってつくった野菜を届ける、というサイクルです。ボックスに入れるものは、生ごみなら何でもOKです。一般的なコンポストでは不可とされるような魚のアラや卵の殻、少量の肉や廃食油なども、二次処理のタイミングで分解できるので問題ありません。これまで35世帯にご参加いただき、年間約4,000リットルの助燃剤削減につながりました。
このサーキュラーエコノミー型CSAは、消費者と生産者の距離が近い都市農業だからこそ、より取り入れやすい仕組みだと思います。資源をうまく循環させるための理想は、1農家が150世帯くらいの家庭とつながること。『環境のために』と声高に訴えるよりも、ごみの量が可視化されて生ごみが減ったり美味しい野菜を味わったりすることで、ゆるやかに気付きを提供していけたらうれしいですね」



近隣住民から集められた家庭ごみ。生ごみ特有の臭いが全くしないのは、一次処理で生ごみの水分と養分を調整し、腐らせずに減量・減容させていくため。



また、鴨志田さんは、コンポストが持つ多面的な可能性にも注目している。

「都市の中にある農地は、災害などの緊急時には避難拠点としての役割も担います。農家には水の備蓄や重機もありますし、自家発電の設備も整っていますから。加えてコンポストは、断水時に排泄物を分解処理できる防災トイレになります。万が一の事態に備えるためにも、日頃から地域の皆さんと農家がつながっていることは、非常に大きな意義があるのです。
コンポストには、人間関係を発酵させる素地があります。コンポストを軸に異なる専門分野の人と話をすることで、イノベーションが起こりやすくなるんです。堆肥は農業資材の側面が強いですが、コンポストは公共性との相性が良いと思います。例えば、防災トイレのほかにも、コンポストからの熱源を利用して床暖房として利用するなど、これまで関わりのなかった組み合わせから新たな価値が生まれます。私が考える鴨志田農園の役割は、人材の養成と実証実験。コンポストが持つ多面的な価値を社会と結びつけ、公共インフラとして発展させていきたいと思っています」