教育を通じてエコロジーとエコノミーが共存する社会の実現を目指す。 2022/07/07

#07 上田壮一さん|一般社団法人 Think the Earth 理事/多摩美術大学 客員教授



さまざまな出会いや気づきから、「好きなこと」「伝えたいこと」その熱意を原動力にして、自分のスタイルで発信する「人」にフォーカスします。それぞれのサステナブルへつながる、発想や取り組みを紹介します。



一般社団法人 Think the Earth理事/多摩美術大学 客員教授 上田壮一(うえだ そういち)

1965年、兵庫県生まれ。広告代理店を退職後、フリーの映像ディレクターに。94年に宇宙から地球を見る視点を共有したいとの想いで「アースウォッチ」を企画。98年にプロトタイプをつくったことを機にThink the Earthを設立。以後、プロデューサー/ディレクターとして地球時計wn-1、携帯アプリ「live earth」、書籍『百年の愚行』『1秒の世界』『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』などを手がける。2017年より持続可能な社会を目指す教員と生徒を応援するプロジェクト「SDGs for School」をスタート。



無関心を好奇心に変える「SDGs for School」プロジェクト



2001年に設立された一般社団法人 Think the Earth。同法人の理事で多摩美術大学 客員教授も務める上田壮一さんはサステナブルな社会の実現を目指し、クリエイティビティの観点からビジネスやコミュニケーション、教育活動などを行っている。上田さんは「クリエイティブの力を通じて、多くの人たちが環境や社会の問題を知り、自分ごととして行動するためのきっかけづくりを行っています」と話す。

現在、特に力を入れているのは「SDGs for School」と銘打った教育プロジェクト。環境問題や社会の課題を分かりやすく伝え、関心を高めてもらうための普及、啓発活動の一環として、主に小・中・高校からフリースクール、専門学校、大学まであらゆる教育機関に向け、SDGs(Sustainable Development Goals-持続可能な開発目標)を学び、考えるためのサポートを行っている。近年ではSDGsに注力している一般企業から相談される機会も増え、講習を実施するなど活動の幅を広げている。「SDGs for School」の最初の活動として上田さんが編集・発行した書籍が『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(紀伊國屋書店)だ。



巻末にはワークショップに参加した子どもたちの率直な疑問や感想、未来への願いが掲載されている。



この本ではインフォグラフィックや写真、マンガ、イラストを中心にSDGsとは? といった基本の知識や世界で実施されている活動を具体的に紹介。環境問題やテクノロジー、金融などさまざまな分野の専門家のコラムや解説も掲載し、より興味関心を深めてもらえるよう工夫を凝らしている。

「2017年に学習指導要領が改定され、学校教育においても「持続可能な社会の創り手の育成」が明記されました。私はこれを機に教育の世界も変わっていく、みんなで未来の社会について考えるいいチャンスだと感じたんです。そこで、持続可能な未来をつくるために楽しく学ぶための教材やツールを、先生や子どもたちに届けたいと想い、『SDGs for School』プロジェクトを始動。『さぁ、勉強だよ』という堅苦しい感じではなく、大人も子どももみんな同じ目線で考えるためのベースがあるといいな、と考えアイデアブックを制作しました」



子どもたちにとってSDGsを考えるのは「当たり前」



この本は、いち早くSDGsを活用した教育を実践したいという熱意のある現役の教師と構想を練り、クラウドファンディングで制作された。生徒たちの声も取り入れようとワークショップも行った。複数の中学・高校から教師と生徒が集い、意見を交わしたり調べたことを発表したりしながら、未来の社会や自分たちの在り方を考えていったという。

「今の子どもたちは、大人が考えているよりも環境問題や社会問題に関心が高く、知識もある。教育プロジェクトというと大人が子どもに教えるイメージがありますが、『SDGs for School』は大人も子どもも同じ目線に立って、一緒に考えていくスタンスを大切にしています。地球の問題、例えば、環境や貧困、国や地域の格差、企業の在り方など、利他的なテーマを自分ごととして捉えていて、学び、意見を発信する行動力があります。私の感覚だと15年くらい前までは、環境問題などは一部の有志サークルだけが取り組むテーマであり、彼らはいわゆる『意識高い系』と揶揄されることもありました。ところが、今はスポーツ系も文化系も関係なく、音楽やダンス部だったり。ごく普通にアクティブに活動している子どもたちが、社会のことを考えるのが当たり前になっている。リーダーシップがある子も多く、この世代が中心になったら、社会課題について考えることがメインストリームになるんだろうなと実感します。社会や環境問題について自分の意見がある人、誰かのために何かしたいという人ほどリスペクトされている学校もある。さらに、今の子どもたちはデジタルネイティブ世代なので情報収集や発信だけではなく、簡単なプロダクトさえパソコンやスマホですぐにつくってしまう。発想や感性の豊かさにいつも驚かされます」





上田さんは、SDGsを考えるとき、大人も子どももフェアな立場で理解を深めていくべきだと言う。ある教育イベントに上田さんが参加したとき、「SDGsは達成できると思うか?」という質問に対して、参加者の半数が手を挙げなかった。すると、高校生が立ち上がり「大人の半分が達成できないと思っているのは残念。できるか、できないかという客観的意見ではなく、どうしたら達成できるのかを主体性をもって考え、行動することが大事なのでは?」と意見を述べた。すると会場がシーンとなって、そのあとに大きな拍手が湧き起こったという。

「社会では『SDGs』の認知は高まったが、ワードが独り歩きしてしまった分、本質を理解しようとしている人が少ないのではないかと感じています。分からないから懐疑的になり、傍観してしまう。SDGsを達成するには、先ほどの高校生が言ったように主体性を持って実践することが大切なんです。でも、私は大人がダメだとは思っていません。SDGsについては、「大人も子どもも1年生」から始めるのですから、これからみんなで学んでいけばいいと思っています。既に企業やNPO、行政が学校と連携する教育プロジェクトも始まっています。例えば衛生や金融、まちづくりなど、企業の事業領域とサステナビリティの接点となるテーマで授業をつくったり、教材をつくって提供したり、社員による出張授業を行う企業もあります」

現在、『SDGs for School』プロジェクトには全国の小中高2000人以上の教員が登録し、約8万人の生徒が授業に参加。2021年には、環境省から環境教育等支援団体指定制度を受け、さらなる活動の充実に向け、さまざまな企画を準備している。



価値観を変えた被災地でのボランティア活動



上田さんが環境問題や社会問題に強い関心を抱くようになったのは、1995年に発生した阪神淡路大震災が大きく影響しているという。発生当時は東京にいたため、自身は被災を免れたが、故郷の兵庫県をはじめ慣れ親しんだ地域の惨状を報道で知り、居ても立っても居られなくなった。縁があってアートボランティアとして子どもたちと一緒に絵を描くことで精神的な不安をやわらげる活動に参加した。

多くの被災された人と話す機会があったが、上田さん自身は当事者ではないため、「私たちの本当の気持ちは分からない」と思われているのではないかと感じ、葛藤したという。

「どれだけ力になりたいと思っていても、自分はその場にいなかったのだから、実際に揺れを体感した人の本当の気持ちに寄り添うことはできないと感じ、無力感に苛まれました。その中で、ある人が『私たちの心に近づこうとしてくれていることがありがたい』と言ってくれました。そのとき、ハッとしたんです。理解しようとする気持ちをもっていることが大事なんだ、と。そう気づいたら、それまでのものの見方が変わったんです。こうした経験を通して、地球と人との関係、社会の在り方を深く考えるようになり、環境問題や社会の課題について学び始めました」





ちょうどこの頃、日本もIT黎明期に突入。ブロードバンドが普及し始め、インターネットを通じて海外の人と気軽に話したり、ライブ映像を共有できる世界になりつつあった。上田さんは「これからもっと面白い時代になる」と確信、自分も時代を変革する側に飛び込んでみたいと強く思ったという。

当時、フリーランスの映像ディレクターとして活動していた上田さんは、宇宙から地球を見る視点を多くの人と共有したいと考え、『アースウォッチ』を企画。このときに、さまざまな企業とパートナーシップを結び、開発を進めた。その後、非営利団体としてThink the Earthを発足。以後、地球時計『wn-1』や写真集『百年の愚行』を発刊するなど、活動の幅を広げていった。

「Think the Earth を設立したのは、地球のために利益を還元する仕組みをつくるなど、ソーシャルマーケティングによる新しいビジネスの在り方を構築したいと考えたから。さまざまな企業・団体とのコラボレーションを通じて、エコロジーとエコノミーが共存する社会の実現を目指しました。『SDGs for School』では、企業、NPO、教師、生徒と立場も年齢も違う人同士が、社会的な共通目的を持って学び、交流しています。そこには上下関係はなく、大人も子どもも、未来の地球について一緒に考え、行動する『仲間』になれるコミュニティだと思っています」



SDGs for Schoolは、「2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)」を題材に、教育支援活動を行うことで、学習指導要領にも明記された「持続可能な社会の創り手」を一人でも多く輩出し、ひいては日本と世界における「持続可能な社会」の早期実現に貢献することを目標としている。



SDGsの推進にはまず、「できていないこと」を知ることから



上田さんは、真にSDGsを目指すなら、まず「できていないこと」を明確にするのが始まりではないかと話す。

「私は1990年の『ボルボ・カー・ジャパン株式会社』(以下、ボルボ)の新聞広告に大きな衝撃を受けました。通常、広告は自社製品の良いところをアピールするもの。しかし、ボルボは『私たちの製品は、公害と、騒音と、廃棄物を生み出しています。』と明記。そして、これらの環境にかかわる問題をどう改善していくかを宣言したのです。今、日本の多くの企業は、SDGsに取り組んでいること自体をアピールする傾向にありますが、本当はできていないことに対する行動指針を出すべきではないかと思います。そうすれば、問題解決のアイデアを生みだす機会や専門家から意見をもらえる機会が増えるなど新たなコミュニケーションが始まり、人材育成や新規事業開発など、より具体的な方法が見えてくる。社会でもSDGsの達成に向けて本質的な行動をしている企業という認識が高まるはずです」





しかし、企業だけがSDGsに取り組んでいても、社会全体の変革にはつながらない。社会で生きる一人ひとりが関心を持ち、消費者の立場からできることをしていくのも大切だ。そこで上田さんは、「日本でも、自然にSDGsに興味を持ち、自分で考えられる仕組みをつくるといいのではないか」と言う。

「スウェーデンを旅したときに、日本でもヒントとなる取り組みがたくさんありました。ある街に環境教育施設がありましたが、日本とは異なるアプローチの展示になっていました。日本だと温暖化のメカニズムの説明など「知識」を知ってもらうような展示になりがちですが、その施設では『都市はどのように機能しているか?』『そのなかでサステナブルではないところはどこだろう?』『どうすれば改善できるか考えよう?』という問いかけで構成されていました。環境ではなく都市からシステムを考える視点が新鮮でしたし、答えを提供するのではなく、市民に考えさせようという姿勢が徹底されていました。ほかにも、行政や企業の取り組みの多くが「選択肢」をつくり、市民が選べるような手法になっていることに感心しました。たとえば、マックスハンバーガーというチェーンでは商品毎にカロリーや価格だけでなく、CO₂の排出量も明記されています。エコな消費行動を押しつけるのではなく、市民が判断できる数値を提供している。別の例では、スーパーマーケットに飲料ボトルを戻すとデポジットが戻ってくる機械にはボタンが2つあって、そのお金を受け取るか、寄付するかを選べる仕組みになっている。多くのことを市民が一人ひとり判断して選択できるようになっているのです。スウェーデンのこうした合理的なシステム思考は、どちらかというとエモーショナルな文化を持つ日本にとっても見習うべきところがあると思います」

最後に、上田さんは、日本でもSDGsをより推進していくには、企業も個人も好奇心をもって学び、問題の本質を知ることが第一歩だという。

「日本人は真面目で勤勉な国民性なので、学ぶスピードが速い。最初は形から入るところがあるかもしれないけれど、そこから深め、実行しようという姿勢があります。とはいえSDGsの17項目を言えればOK、何かを発表したらそれで満足といった感覚のままだと思考停止と同じです。重要なのは、私たち一人ひとりが未来に対する好奇心をもつことです。大人も子どももSDGsを机上で学ぶのではなく、問題の本質にリアルに触れることで思考は動き始め「もっと知りたい」「何かやってみたい」という積極的な気持ちが生まれてゆくと思います。そうした経験を重ねながら、自分自身の考えを育んでいってほしいです」