熱量を探る先に見えるもの 2022/01/27

#04 鈴木杏奈さん|東北大学 流体科学研究所 准教授



さまざまな出会いや気づきから、「好きなこと」「伝えたいこと」その熱意を原動力にして、自分のスタイルで発信する「人」にフォーカスします。それぞれのサステナブルへつながる、発想や取り組みを紹介します。



東北大学 流体科学研究所 准教授/鈴木杏奈(すずき あんな)

宮城県大郷町生まれ。2009年に東北大学工学部機械知能・航空工学科を卒業、2014年東北大学大学院環境科学研究科で博士号を取得。その後、スタンフォード大学、東京大学大学院数理科学研究科でポスドクとして、持続的な地熱エネルギー開発のための流れのデザインに関する研究に従事。2016年11月より東北大学流体科学研究所に所属、米スタンフォード大学客員研究員。2014年日本地熱学会研究奨励賞。2021年11月より准教授。
研究の傍ら、2011年3月に東北大学地域復興プロジェクト"HARU"を立ち上げ。2018年には温泉地域を拠点に、ワクワクを共有する「仲間」や「場」をつくることを目的とした活動「Waku2 as life(ワクワクアズライフ)」を開始。異分野異業種の人々や地元住民とともに、リモートワーク合宿やサマーキャンプなど様々な取り組みを行っている。



美しい自然と優しい人々に触れ、地熱エネルギーの研究者に



「研究者として目に見えない地下の世界を説明する機会が多いのですが、聞いている方々が『おおっ!』と驚いたり、楽しんで笑顔になっているのを見ると嬉しいです」
東北大学流体科学研究所准教授の鈴木杏奈さんは、持続可能な資源の活用をめざし、地下の世界の資源の様子を研究している。研究の傍ら、年齢や業種も様々な人々に対し、地熱エネルギーを取り巻く現状や課題について伝えている。その紹介の様子は「流体科学」という言葉の持つ一見難解な印象と裏腹に、どんな人にもわかりやすい内容で、時には笑いが起こるなど、終始親しみやすい雰囲気で溢れている。





「小さい頃から自然豊かな場所に住んでいて、アウトドアが好きな父親の影響もあり、自然に触れることが大好きでした。中学生の頃、地元にある山の森林が伐採されているのを目の当たりにして『私たちの都合で、自然を壊していいのかな』とふと思って。それから環境問題に関心を持つようになり、持続可能なエネルギーの研究をしようと大学に入学しました」

様々なエネルギーの中でも、鈴木さんが着目したのは地球の内部に存在するマグマの熱である「地熱」。出身の宮城県には地熱によって湧き出る名湯がたくさんあり、身近なエネルギーでもあった。

大学在学中にはアイスランドの企業でインターンシップに参加。語学もままならない状態で、数々の失敗も経験した。困った時には、いつも現地の人々が助けてくれて、友達として温かく受け入れてくれた。その経験から「将来、自分も他の人の役に立てる人間になりたい」とより強く思うようになったという。

大学卒業後、鈴木さんはアメリカで研究を行う。数式を用いて地下にある岩の隙間の熱水の流れを研究する日々。研究室にこもって机に向かい、自分が研究していることは何かの役に立っているのだろうか?と感じることもあった。

「そんな折、グランドキャニオンやデスバレーなどの国立公園を訪れました。岩石の割れ目構造の美しさに、自然の計り知れないエネルギーを感じて心動かされました。研究室で数字に向き合っている時は気づかなかったのですが、自分はこんなにも美しい自然を研究していたんだ、と改めて実感しました。自分の目の前にあるものと研究がつながった瞬間でした」



岩の割れ目に魅了されたアメリカのデスバレーでの一枚。これがきっかけで、岩の割れ目の「かたち」に着目した数学の分野である位相幾何学(トポロジー)を自分の研究に取り入れるようになったそう。



資源も想いも活かす研究者として



数学モデルの研究から、構造デザインの研究へ。以降、鈴木さんの研究は、自然の資源を活用して社会に役立てる方向へとシフトする。

「海外生活の中で、日本にはない美しい自然に感動する一方、日本にも固有の素晴らしい景色があると気づきました。例えば私の地元、宮城県の鳴子温泉の鬼首(おにこうべ)地域にある地獄谷。熱い温泉が吹き出す様子や間近に感じる熱量は、時に恐怖さえ感じます。こんなにも大地のエネルギーを感じる景色はありません。それと同じく、どの土地にも固有の素晴らしい資源があります。一方でエネルギーにおいては、日本はまだまだ輸入に頼っているのが現状。地元にない資源を他の国から持ってきて成り立っている私たちの生活にも、どこか納得がいかない点もあるんですね。国内の資源を上手に活用することこそ、真の豊かな生活につながると考えています。では、日本が誇れる資源とは何か。それは『地熱』です」





地熱の魅力は純国産エネルギーであること、と話す鈴木さん。
なんと、日本は世界第3位の地熱資源量を誇る。暖房・融雪・農業・養殖業のための熱源として利用できるほか、発電にも利用できる地熱だが、日本では全資源量の2%しか活用できていないのが実情だ。そこにはいくつかの課題がある。まず、地熱エネルギーを取り出すための温泉はどこを掘ってもいいわけではない。枯れることのない、高熱の温泉を掘るためには、どの地点を採掘すればいいのか把握するために、事前に地表からは分からない地下の温泉の流れやその温度の評価をすることが必要だ。また採掘には数億円のコストがかかるため、高額な初期投資とリスクの請負が必須となり、開発に踏み切れない実情がある。鈴木さんは事前に温泉の流れをシミュレーションすることで開発リスクやコストを低減し、自身の研究を役立てたいと語る。

さらに、地熱資源活用の課題はコスト面や技術面のほか、文化的な理由もある。それが、温泉の枯渇を危惧する声だ。

「私は地熱資源の活用実現を目指して研究をしていますが、活用に疑問を持つ方たちもいる。どちらが正しいわけでもない。だからこそ、様々な考え方や意見を持つ人々が共にエネルギーのことを考え、語り合う場所が必要です。そうして初めてその地域での進むべき道が見えてきます。私も研究者として技術的なことだけでなく、もっと温泉事業を営む方々や住民の方々の状況や考えも知りたいと思うようになりました」



楽しむ場と仲間をつくることで生まれる変化



そこで鈴木さんが始めた取り組みが、温泉地を拠点とした「waku2 as life(ワクワクアズライフ)」。年齢、職業、住んでいる地域も様々な人々を対象に、温泉地でのリモートワークや、サマーキャンプ、温泉に関する研究者のトークイベントなどを開催している。

「この活動は温泉を通して全ての人が健康に、ワクワクを感じて楽しむ場と仲間を作ることを目的にしています。みんなで温泉に入った後、まったりしながら他愛もないおしゃべりもします。特に地熱資源の活用に関する自分の考えを押し付けたいとは思ってないんです。みんなで集まって地域の課題に気づき、考える場をつくりたいという思いが強いです」



「waku2 as life(ワクワクアズライフ)」のサマーキャンプでは、宮城県大崎市鳴子温泉郷にある吹上高原でキャンプをしながら最寄りの地獄谷遊歩道まで探索します。地獄谷では地面のあちらこちらで温泉が湧き出ており、自然にできた間欠泉を見ながら「大地の力」を体感できます。



活動の楽しそうな雰囲気は企画のネーミングや鈴木さんの親しみやすい語り口調からも感じとることができる。
「Waku2 as lifeのネーミングはもちろん、ワクワクと『湧く』をかけた洒落です。(笑)
突然、『みんなでエネルギー問題について考えましょう』と言っても、とっつき辛いですよね。環境問題のようにテーマが大きいと、自分の行動で解決できる問題として捉えにくく、誰か専門家の考えるもののように感じてしまいがちです。サステナブルな社会を実現するためには、自分ごととして身近に感じながら、課題意識よりも楽しんで行動することが重要だと思います。楽しさがなければ何事も続きません。それに、なにか課題を解決する時って、どんなことでもいいから先ずは行動することが大切だと思うので、温泉に入って地熱資源の恵みを享受するだけでも課題解決の最初の一歩になる。まずは温泉地に足を運んでもらい、資源に触れる体験をしてほしいんです。そのうえで、『温泉のパワーはすごいな』とか、『温泉の熱源ってどうなっているんだろう?』とか『ありがたいな』とか心の変化があるとさらに嬉しいですね」

Waku2 as lifeの活動はまだまだこれからです、と鈴木さんは話す。





「地熱資源についてだけでなく、社会の実情も理解して地熱資源の活用をデザインできる『資源と社会の橋渡し』をする研究を目指しています。地域の方々の話にしっかり耳を傾け、協力しながら地熱資源の活用を実現して、ほかの地域にも広められる事例を築いていきたいです。アメリカで研究していた時、周囲に日本人が殆ど居らず、留学して研究する日本人が減っていると聞きました。『もっと日本人頑張ってよ!』と思ったのですが、すぐに『違う、私が頑張らないといけないんだ!』と気づいて。(笑) これまでの世代の方々が頑張って日本を築き上げてくださった分、私たちの世代が日本を盛り上げられるように努力したいと思います」