「もの」に秘められた可能性を見出す 2021/10/19

#01 島津冬樹さん|段ボールアーティスト

TSUNAGU[つなぐ]
さまざまな出会いや気づきから、「好きなこと」「伝えたいこと」その熱意を原動力にして、自分のスタイルで発信する「人」にフォーカスします。それぞれのサステナブルへ“つなぐ”、発想や取り組みを紹介。





段ボールアーティスト/Carton 島津冬樹(しまづ ふゆき)

1987年、神奈川県生まれ。2012年多摩美術大学情報デザイン学科卒業。2015年、広告代理店を経てアーティストヘ。「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、2009年より路上や店先で放置されている段ボールから、財布を作るCarton(カルトン)をスタート。日本のみならず、世界35ヵ国を周り、段ボールを集めては財布を作ったり、コレクションしている。国内外での展示やワークショップも多数開催している。
2018年冬に、Carton/島津冬樹を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』が全国劇場公開。自身初となるエッセイ『段ボールはたからもの 偶然のアップサイクル』も全国書店で発売中。



好きなものから生まれたクリエイティビティ



段ボールの新たな可能性を追求しているのが、段ボールアーティストの島津冬樹さんだ。緑豊かな世田谷公園の近くにあるアトリエには、世界各国から集められた多種多様の段ボールがコレクションされており、島津さんは「その一つひとつに誰かの想いが詰まっている」と話す。





「子どもの頃、海辺を散歩中に当時大好きだったさまざまな貝殻を集め、図鑑で種類や特徴を調べては、自分で標本を作っていました。好きなものを拾い集めるという収集癖があったのですが、集めるだけでは物足りず、形にして人に見てもらうのが好きだったんですよ。好きなものを誰かに見てもらいたいという想いがあったんだと思います。それに、ものづくりや絵を描くのが好きだったので、高校生の頃に将来アートディレクターになりたいと思うようになり、多摩美術大学へ進学し、ふとしたことから段ボールの虜になったんですよね」

きっかけとなったのは、大学2年生のときに財布が壊れ、すぐに買い替えられなかったため、自宅にあった段ボールで財布を作ったことだった。アルバイト代が入るまでのつなぎのつもりだったが、思いの外頑丈で、結局1年以上使ったそう。そんな時、観光で訪れたニューヨークで街を歩いている時に、「なぜか街に捨てられていた段ボールに目が留まり、当たり前なんですが、日本以外でも段ボールが日常にあることに気づかされて、おしゃれでビックリしたんです」と語る島津さん。その段ボールの美しさやデザインに次第に惹かれていった。この頃から国内外の段ボールを集めるように。



活動の原点になった段ボールでつくった財布。使いこんで風合いを増して、今でも大切にしている。



「段ボールといっても、国や地域によってデザインも質感も違います。アメリカは紙質が固く、アジアは柔らかいものが多い印象。デザインにも、それぞれの想いが込められているんです。例えば、フロリダで拾ったペリカンが描かれた段ボール。梱包されていたのはグレープフルーツで、その産地には美しいラグーンがあり、ペリカンが生息しています。デザインした人は、あえて商品をデザインせず、産地の象徴であるペリカンを描くことで、生産者の想いや価値を最大限に伝えているのでしょうね。こうしたルーツを知るたびに、段ボールはただの梱包資材ではなく、さまざまな人の想いが込められると実感するんです。どんな想いで作られたのか、デザインされているのか、想像を膨らませるだけでもワクワクしますね。作られた背景や物流の過程に、誰かのストーリーが存在している。段ボールは、荷物と一緒にこうした誰かの想いも載せて、世界中を旅しているんです。
思い入れのある段ボールは、すべて僕の宝物。好きすぎて財布にはできないんですよね(笑)」



フロリダで拾ったペリカンが描かれた段ボール。「物語」が詰まっているのが魅力。



段ボールに込められた人の思いに魅了されて



美大を卒業後、新卒で広告代理店にアートディレクターとして入社したものの、段ボールへの想いは募るばかり。考え抜いた上で、大きな決断を下すことになります。

「通勤時間に段ボールを集めてしまったり、早く帰宅して作品を作りたいという想いにあふれてしまったりして、やっぱり段ボールが好きだなぁ、と改めて実感しました。自分が何をやりたいのかが明確になった3年間でした(笑)。退職に迷いはありましたが、自分と向き合って考えたときに、やらない後悔よりやって後悔したほうがいいと思ったんです。やりたいことを思い切りやってから人生を終えたい、と」

退職後、「Carton」としての活動を開始。段ボール財布の制作、販売のほか、有名メーカーの通信販売用梱包箱の企画、デザインや国内外でのワークショップの開催など、活動の幅を大きく広げていった。

一番印象に残っているワークショップは、愛媛県のみかん農家さんとのものだと語る。



みかん農家さんを対象にしたワークショップの様子。



「愛媛の八幡浜で開催したワークショップでは、みかん農家さんだけを対象にしたものでした。みかん箱は山ごと、つまり産地ごとに段ボールのデザインが違っていて、それぞれとても美しく、奥深さを感じました。そのデザインの背景を伺うと、それぞれ想いがあり興味深いものが多かったです。ミカン箱は日本特有だし、僕の一番好きな箱なんです。みかんの出荷は、長崎から徐々に東の産地へと変わっていくので、季節の移り変わりも段ボールのデザインで知ることができるのがまた面白いんですよ」



「不要なもの」から「大切なもの」へ



「Cartonを立ち上げて5年目ぐらいのときに、段ボール財布の存在意義、価値を自覚するようになったと思います。『不要なもの』から『大切なもの』へというコンセプトは、段ボールを通じて、いろいろなものに価値があることに気づいてほしいという想いを込めています。ワークショップでは、老若男女問わずたくさんの方に参加いただき、『段ボールで財布が作れるなんて』と驚きの声も寄せられます。本来不要となるものも、視点を変えればまた、新たな楽しみ方があることを気づいてもらえると嬉しいですね」

昨今、SDGs(持続可能な開発目標)やサステナビリティのために取り組む企業や組織も増え、その概念も浸透しつつあるが、「SDGsのため、サステナビリティのために取り組みを行っているのではない」と話す。



島津さんがつくる段ボールから生まれた作品。



「段ボールが好きでこのような活動を行っているということ、このことは自分に嘘をつかないようにしています。決して押しつけがましいようなことはしたくないんです。やっていて楽しい、カッコいいということが結果的にサステナビリティにつながるといいと思っています。最近では、自分がいなくてもお店に行けばアイテムが作れるような取り組みや、通販の箱にサコッシュを作ることができるデザインを施し、段ボール自体をデザインすることで、ものを大切にしてもらえる新たな取り組みも進めています。次に生かせることはないかと立ち止まって考えることこそがサステナビリティの本質であり、大事なことだと考えています。きっかけは何であれ、一人ひとりが楽しみながら考えること、気づきを得ることで世の中は変わっていくと思います。」