日本が変われば、世界が変わる。[後編] 2023/01/05

エクベリ 聡子&ペオ・エクベリ(株式会社One Planet Café) × マーティン・パーソン #02

TAZUNERU[たずねる]
ボルボ・カー・ジャパン社長のマーティン・パーソンが、これまでにない捉え方やアイデア、技術でサステナブルな活動に取り組み、各界でイノベーションを起こしているリーダーたちを“たずねる”。



「ワンプラネット・カフェ」の日本の拠点、東京オフィスのある虎ノ門のコワーキングスペースにて。



株式会社One Planet Café  CEO/代表取締役社長

エクベリ 聡子(エクベリ さとこ)
日本出身。2007年アフリカ・ザンビアで、大人の学び場「One Planet Caféザンビア」を共同で設立。サステナビリティの具現化に向け、日本とアフリカの対等なパートナーシップによる事業、企業のBOPビジネス支援、CSRコンサルティングなどの活動を行う。2012年、夫のペオ・エクベリ氏と「ワンプラネット・カフェ」を設立。日本企業向けの講演、研修、視察ツアーなどを開催。SDGsを基礎としたサステナビリティ関連のコンサルティングのほか、近年は、ザンビアで廃棄されていたバナナ繊維と日本の和紙技術を活かした「バナナペーパー」事業に注力。2016年世界フェアトレード認証を取得。2020年経済産業省「SDGsに取り組む企業事例15社」に選定。



株式会社One Planet Café  取締役/サステナビリティ・プロデューサー

ペオ・エクベリ
スウェーデン出身。NGO環境団体のリーダー、ジャーナリストとして活動を始め、来日。1997年「One World国際環境ビジネスネットワーク」を設立。日本全国で環境問題の解決やサステナビリティの原理原則についての講演を行い、テレビ・ラジオの環境番組のナビゲーターなどを務める。スウェーデンでのサステナビリティ体験を提供する視察ツアーを20年以上に渡り実施。2011年、サステナブルでエシカルな紙作り「バナナペーパープロジェクト」を「One Planet Caféザンビア」と共にスタート。2012年、妻のエクベリ 聡子氏と「ワンプラネット・カフェ」を設立。著書に、エクベリ 聡子氏との共著『うちエコ入門』(宝島社)などがある。



前編では、環境負荷を低減しながらも経済成長を続けるスウェーデンと、さらにサーキュラリティやエシカルへと広がりを見せるサステナビリティの現状などについて語り合いました。

後編では、そうしたサステナブルな社会のベースにある原理原則、それを理解し変化につなげるためのエクベリ夫妻の取り組みについてうかがいながら、本当の「おもてなし」について考えます。



サステナブルネイティブのベースにあるもの。



エクベリ 聡子
スウェーデンでは世代を問わず、社会のベースにサステナビリティに対する国民のコンセンサスがあるのを感じます。
ペオ・エクベリ
なぜなら私たちは、科学的な根拠に基づいた「原理原則」が自然に頭に入っているからです。1990年代から義務教育にも導入されています。だからいわば「サステナブルネイティブ」になったのだと思います。
原理原則とは、1つは、地下資源ではなく地上にある資源の利用です。化石燃料からバイオ燃料などへ切り替えることです。2つ目は、資源は使った分だけ自然界に返して、回復できる量以上に取らないことです。そして3つ目は、生物多様性を保護することです。これらを理解していれば、迷いがなくなります。そして、一度理解すれば、サステナビリティに参加したいという気持ちが起こります。「自転車現象」と私たちは言いますが、一度自転車に乗ることを覚えたら、忘れないのと同じです。




マーティン
よくわかります。乗ることが楽しくなり、どんどん走りたくなります。
ペオ・エクベリ
スウェーデンの視察ツアーに参加すると、この原理原則を実際に体験できます。街を歩くだけでも、あちらこちらでサステナブルの取り組みを見て、体験することができます。バナナとコーヒーのカスで走るバイオ燃料のバスに乗り、風力で走る電車に乗り、再生可能エネルギー100%のグリーンホテルに泊まり……2日間でほぼCO₂を出しません。一度体験すると、人生が変わります(笑)。なるほど、本当に可能なのだと、みんな希望に満ちた目になるんですよ。そして日本とスウェーデンの飛行機移動で出したCO₂は、帰国してからの行動で減らしましょうと学んで帰りますから、実際に行動に移す方がほとんどです。グリーンエネルギーに切り替えた会社もありますし、電気自動車に買い替えた方もいます。この体験を生かしてビジネスに取り入れ、赤字から黒字に転換した企業もあります。
マーティン
そのように、一人ひとりが自発的に思考回路を変化させることが本当に大切です。ペオさんたちは、まさにそのパイオニアですね。


本当の「おもてなし」とは。



マーティン
今、私たちはディーラーの教育に力を入れています。ボルボのディーラーは日本に約100店舗あるのですが、サステナブルについての正しい知識を備えた「サステナブルアンバサダー」を設けようと考えています。やはり私たちがきちんと説明できないと、お客様には理解していただけません。私たち自身の教育が大切であり、ひいてはそれがお客様への教育にもつながると考えています。
ペオ・エクベリ
企業が教育者になる、これは大事なことです。スウェーデンの様々な企業でも言われていることです。
マーティン
これからは、ディーラーでのおもてなしの概念も、ラグジュアリーからサステナブルへ変わっていくと私は思っています。




エクベリ 聡子
ええ。「おもてなし」も、スウェーデンではもっと広い意味に捉えられているのだと思います。例えば、あるスーパーに「私たちはきれいな魚しか売りません」というポスターがありました。特別きれいな色の魚ではないし、どういう意味なのだろうと思い尋ねてみると、「絶滅危惧種の魚は売りません」ということでした。ずっと広い意味での「きれい」だったわけです。
ペオ・エクベリ
「安心安全」という言葉を日本ではよく使いますが、それは多くの場合、自分自身にとっての安心安全です。スウェーデンではもっと包括的に、生産者までを含めた世界の安心安全が問われます。
マーティン
ボルボのコミュニケーションも、まさに「パーソナルセーフティー(人の安全)」から「プラネタリーセーフティー(地球の安全)」へと広がっています。
ペオ・エクベリ
私は、そうした考え方は本来、日本にこそぴったりではないかと思います。「思いやり」という言葉があるように、相手のことを考えられるのが日本人でしょう。
企業がまず、お手本になることだと思います。視察ツアーでは、中小企業の方々と一緒に、ヨーテボリのボルボ本社も訪問しました。工場見学をさせていただいたのですが、従業員の方たちが本当にみな幸せそうでした。この写真は社員食堂です。ベジタリアンのメニューもあるし、オーガニックもあります。幼稚園から大企業まで、スウェーデンではこうした選択肢がいくつもあるのが普通になっています。それぞれの価値から、自分が選択する。だからストレスがありません。


視察ツアーで訪れたヨーテボリ、ボルボ本社の社員食堂。ベジタリアンの選択肢やオーガニック食材の提供などが通常で行われている。
PHOTO: One Planet Café



マーティン
そうです、まず企業が選択肢を増やすことが大切です。私たちカーブランドはサステナブルな選択肢を用意して、それぞれから得られる価値をお客様に説明しなくてはいけません。その中から選択をするのは、お客様です。
エクベリ 聡子
選択肢といえば、今スウェーデンのバナナはほとんどがフェアトレードでオーガニックですが、かつてあるスーパーがこんな試みをしました。2種類のバナナに、「オーガニックバナナ」と「農薬バナナ」と表示して、お客様に選んでもらうという試みです。




ペオ・エクベリ
オーガニックバナナの方が値段は高かったけれど、みんなそちらを買うようになったのです(笑)。
エクベリ 聡子
事実を伝えるだけで行動が変わる、ということは実はたくさんありますよね。ただ、やはりそこにはオーナーの思想や哲学がないと、そこまではできません。だから、やはり企業がまず教育者になるということが大切だと思います。
ペオ・エクベリ
企業が率先してサステナビリティについての教育者になることはポジティブな行動ですね。もう一つ最近のスウェーデンのキーワードに、エコロジカルハンドプリントがあります。
エコロジカルフットプリントは、悪いものを減らそうというもの。一方、エコロジカルハンドプリントは、良いものを増やそうというポジティブな考え方で、ボルボも含めて様々な企業がシフトしていますね。我慢や節電ではなくて、ポジティブな方へ。
マーティン
はい、まさにポジティブは私たちのキーワードです。ボルボ・カー・ジャパンもお手本となるように、率先してチャレンジしていきたいと考えています。




ペオ・エクベリ
私たちは世界を変えたいと思ってこれまで活動してきましたが、日本が変われば、世界が変わると思っています。スウェーデンはやはり小さな国です。その12倍もの人口規模がある日本が変われば、少なくともアジアが大きく変わる可能性があります。アジアには日本を尊敬している国々が多いです。ヨーロッパでも日本に対するイメージはとてもいいです。一生に一度は行ってみたいという人が多くいます。だからもっと自信を持って、積極的に楽しんでサステナブルな選択に参加してほしいですね。今、日本から世界に発信していくチャンスだと思います。私たちももっともっとポジティブな影響をみなさんに与えていけたらと思っています。
マーティン
私たちはとても良いパートナーになれそうです。今日はどうもありがとうございました。
エクベリ夫妻
私たちもそう思います。どうもありがとうございました。


お二人は、日本とスウェーデン、両国の事情に精通し、グローバルなネットワークもお持ちの貴重な存在です。長年サステナビリティを伝える活動を有言実行されてきたパイオニアだけに、とても表現が的確で、実のある楽しい対談でした。しかも、自ら「バナナペーパー」のビジネスを実践されていますから、説得力がありました。まだまだお聞きしたいことがたくさんあります、また機会をつくっていきたいです。



聞き手:ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長 マーティン・パーソン

1971年スウェーデン生まれ。明治大学に1年間留学して経営学を学び、1999年ボルボ・カーズ・ジャパンに入社。約10年を日本で過ごす。その後、スウェーデン本社でグローバル顧客管理部門の責任者を務め、ロシア、中国などを経て、2020年10月、ボルボ・カー・ジャパンの社長に就任。日本で楽しみにしているのは、温泉地巡り。日本の温泉は、旅館や料理などトータルに楽しめるのはもちろん、温泉地の豊かな自然が何よりの癒し。