日本により良い変化を起こすには。[後編] 2022/10/20

末吉里花(エシカル協会 代表) × マーティン・パーソン #02



ボルボ・カー・ジャパン社長のマーティン・パーソンが、サステナブルな活動に取り組み、各界でイノベーションを起こしているリーダーたちを訪ねます。これまでにない捉え方やアイデア、技術で、社会的意義のある新たな価値を生み出し、社会にインパクトを与えている彼ら。サステナブルでイノベーティブな未来について、ともに語り合います。



一般社団法人エシカル協会 代表理事 末吉里花(すえよし りか)

1976年ニューヨーク生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして世界各地を旅する。2015年「エシカル協会」を設立、エシカルな暮らし方が幸せのものさしとなる持続可能な社会の実現を目指して、講座や講演、政策提言などを通じて、エシカルの考え方やエシカル消費の普及啓発に取り組んでいる。日本ユネスコ国内委員会広報大使、東京都消費生活対策審議会委員、日本エシカル推進協議会理事、日本サステナブル・ラベル協会理事など、政府政策検討委員や数多くの機関や企業、自治体などのアドバイザーやアンバサダーを務める。近著に『エシカル革命』(山川出版社)など。



前編では、エシカル消費のパワーと、これからの企業に求められるエシカルな経営について語り合いました。
後編では、末吉さんのスウェーデンでの体験をうかがいながら、日本がサステナブルな社会へと変化していくためのヒントを探ります。



先行するスウェーデンのサステナビリティ。



末吉
日本にも、人のことを大切にしてきた企業はたくさんあると思うのですが、どうも人とサステナビリティの間に大きな隔たりがあって、人を大事にすることと、地球環境を守ることがつながっていない気がします。
マーティン
わかります。私が感じるのは、例えば日本の「おもてなし」です。お客様のためにいろいろなサービスをしてくれる心遣いはすばらしいのですが、使い捨てのプラスチック製品で過剰に梱包されていたり…、それがサステナブルかどうかは疑問ですよね。スウェーデンでは、その梱包は必要ないのではと議論になります。
末吉
2019年の夏に初めてスウェーデンを訪ねた時の体験が衝撃的でした。日本より20~25年も進んでいると聞いていましたが、いたるところでサステナビリティを体感できる機会があって、本当に学びが多かったです。

最初に南部のマルメ市を訪ねたのですが、電車に乗れば、100%風力発電の電気で走っていましたし、川を渡れば、市民が使ったアルミ缶やガラスボトルをリサイクルしてつくった橋でした。市内に着いてバスに乗ると、今度は生ゴミのバイオ燃料で走るバスなのです。「生ゴミでバスが走るなんて、すごいですね!」と言ったら、「生ゴミ!? 私たちは“生資源”と呼んでいますよ」と言われたのです。ゴミそのものの概念も打ち砕かれるような体験でした(笑)。

2015年に世界市民会議が行った「気候変動対策は生活の質を上げるか、それとも生活を脅かすか」という調査では、世界の国々の66%以上の人が「生活の質を上げる」と答えたのに対し、日本では約60%の人が「生活の質を脅かす」と回答しました。やらなければという義務感や、ネガティブに考える人が多いのです。スウェーデンは逆ですね。わくわくする未来に向かう楽しいこと、とポジティブなメッセージが伝わっている点も違うところだなと思います。




マーティン
確かにそうかもしれません。この間スウェーデンに帰ると、やはりガソリンがとても値上がりしていました。でも、スウェーデン人は仕方がない、それならばどうするかを考えます。それが次のチャレンジのきっかけになっているような気がします。
末吉
日本人はとても変化を恐れます。でも、スウェーデンの人はこう言うんですね、「Close your eyes and just do it(目をつぶって進んでしまえ)!」(笑)。変化を恐れずチャレンジするという、その辺も見習うべきだなと感じます。


変化を後押しする政治と教育を。



マーティン
変化するためには、政府の役割も大きいと思います。例えば、補助金などのインセンティブです。私たちが電気自動車をスウェーデンでスタートしたのも、政府の支援があったからです。やはり電気自動車はそうでない車より高いですから。特にシフトしていく最初の頃はインセンティブなどの支援が必要ですね。
末吉
ええ、努力している企業が損をしてしまうような社会ではなく、またできるだけ多くの人がエシカルでサステナブルな製品を享受できるように、経済的な支援に加えて政策、法律、様々な政府の後押しが必要だと思います。サステナブルな社会を実現するには、生活者と企業の両輪が大事です。そのためには政府の力がどうしても必要ですから、私たちも積極的に政策提言をしていきたいと考えています。

ボルボさんもウェブサイトで、電気自動車普及のために、再生可能エネルギーで充電できるインフラを整備していく必要があると、提言されていますね。
マーティン
はい。私たちはクルマを電動化するだけでは十分ではなく、CO₂は再生可能なエネルギーで発電した電気を充電してこそ大幅に削減できると考えています。ボルボでは、ライフサイクルエネルギ―(LCE)という考え方に基づいていますから、環境負荷はトータルで考えないと意味がないということです。

だから、電気自動車の製造に使う電力にも気を配る必要があります。2008年からヨーロッパにあるボルボの工場は、すべて水力発電だけで稼働しています。
末吉
もう一つ、重要なのは教育のあり方ですね。

スウェーデンで知ったのは、幼稚園児が必ず受けるという環境についての教育です。バナナの皮やペットボトルのフタなどを木の板にくくり付けて土の中に埋め、しばらくして取り出す、という体験を通して、自然の中で何が起こっているのかを自ら考えます。しかも、そうした学びの機会が大人になってからもありますね。日本もそうなってほしいと思っています。
マーティン
さらに、昔からスウェーデンには、「自然はみんなのもの」という考え方があります。たとえ私有地であっても、誰でも自由に森や林に入ることができます。誰もが自然を享受できる「自然享受権」という権利です。だから、地球環境に対して自分の事として責任を感じられるのかもしれません。私が日本でとても不思議なのは、富士山です。ゴミがたくさん捨ててあります。日本では、自分のエリアとそうでないエリアとで、自然に対する意識がかなり違いますね。そこはスウェーデンと大きく違うところかもしれません。




末吉
なるほど。とても面白いですね。「みんなのもの」というのは、つまりコモン(common=共有財の意)ですね。ルールで縛るのではなくて、コモンの領域を、日本でももっと広げていく必要があると感じます。日本の子どもたちがそういう意識を持つためには、やはり教育ですね。遠回りかもしれませんが、確実な方法ではないかと思います。

エシカル協会では今年、日本で初めて『エシカル白書2022-2023』(山川出版社)を刊行しました。その中で、全国6,040人の10代~60代以上に「エシカル消費に関心がありますか」という調査を実施したのですが、「関心がある」と回答した世代のうち10代が一番少なかったことがショックでした。日本にはまだまだ情報格差があるような気がします。例えば、日本のニュースではあまり世界のニュースを報道しません。
マーティン
私も、不思議に思っていました。2020年に12年ぶりに日本に戻ってきて、より島国になった印象を受けました。海外留学をする人も少ないそうですね。そうした中で、適切な情報とともに「なぜ」を広く伝えていくという末吉さんたちの活動には、大きな意味があると思います。

最近また、企業と組んだ新たなチャレンジを始められたそうですね。
末吉
はい。千葉県の匝瑳(そうさ)市で2021年6月、ソーラーシェアリング事業を開始しました。「株式会社ボーダレス・ジャパン」「Three Little Birds合同会社」「エシカル協会」の3社協業です。農地の上に細長い太陽光パネルを並べて、農作物と発電で太陽の光をシェアするという仕組みです。太陽光パネルによってほどよく日陰ができ、そこに適した作物を、不耕起栽培、無農薬で育てながら、発電をしています。
マーティン
生産と消費を同時に行うプロシューマーですね!すばらしいチャレンジです。
末吉
暮らしを考えるとエネルギーは大事です。そして再生可能エネルギーを普及させるためにも、私たち自らが実践者となることで、より踏み込んだ変化の担い手になりたいと考えました。この事業全体を教育のフィールドとして活かし、今後は様々な人が体験できるような場所にしていけたらと思っています。また、作り手の側になってみることで、消費しているだけでは見えなかったことも見えてくるのではないかと期待しています。




マーティン
最後に、今後の活動について伺わせてください。
末吉
今回の『エシカル白書』の調査では、今後エシカルな消費をしたいと思っている人が、日本にも全体の6割くらいいることがわかりました。それが私たちの希望です。企業にとっても大きなポテンシャルになると思います。私たちとしてはその人たちの関心をどう実践に結びつけていくか。みなさんの行動につながるような本質的なことを伝え続け、変化を起こす人たちをもっともっと増やしていきたいです。企業のみなさんとも一緒に取り組んでいきたいと考えています。
マーティン
スウェーデンのサステナビリティもパーフェクトなわけではありません。議論して、トライして、失敗して、それでもチャレンジを続けてきました。ボルボも同じ、チャレンジャーなのです。
末吉
トライアル&エラーを繰り返しながら、より良い方向へ進んでいくということですね。心から応援しています。
マーティン
ありがとうございます。これからも一層のご活躍を期待しています。


まさに自ら考え、変化を起こそうと行動し続けている末吉さん。お話を通して、改めてエシカルがサステナブルな社会の土台となる、そして大きな変化につながる、とても大切な視点だと感じました。物事を良い方向に導き、社会にポジティブな影響をもたらす企業でありたいと考えるボルボとは、共感する点が非常に多かったです。



聞き手:ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長 マーティン・パーソン

1971年スウェーデン生まれ。明治大学に1年間留学して経営学を学び、1999年ボルボ・カーズ・ジャパンに入社。約10年を日本で過ごす。その後、スウェーデン本社でグローバル顧客管理部門の責任者を務め、ロシア、中国などを経て、2020年10月、ボルボ・カー・ジャパンの社長に就任。12年ぶりの日本で楽しみにしているのは、温泉地巡り。日本の温泉は、旅館や料理などトータルに楽しめるのはもちろん、温泉地の豊かな自然が何よりの癒し。