たくさんの生き物たちと、この地球に生き続けていくために。[後編] 2021/12/23

五箇公一(生態学者) × マーティン・パーソン #02



ボルボ・カー・ジャパン社長のマーティン・パーソンが、サステナブルな活動に取り組み、各界でイノベーションを起こしているリーダーたちを訪ねます。これまでにない捉え方やアイデア、技術で、社会的意義のある新たな価値を生み出し、社会にインパクトを与えている彼ら。サステナブルでイノベーティブな未来について、ともに語り合います。



生態学者・国立環境研究所 生態リスク評価・対策研究室室長 五箇公一(ごか こういち)

1965年富山県出身。幼少期から自然に親しむ。1990年京都大学大学院修士課程修了。バイクツーリングを趣味として、在学中には日本一周を敢行、各地の原風景に触れた。在学中に出会い、のめり込んだ「ダニ」の研究を生かすべく総合化学メーカーに入社、農薬開発に携わる。しかし、農薬が全く効かないダニの出現に敗北感を覚え、1996年博士号取得後、国立環境研究所に転じた。専門は保全生態学など。現在は生物多様性の保全、とくに外来生物対策に取り組む。国や自治体の政策にかかわる一方で、黒ずくめのスタイルで「全力!脱力タイムズ」(フジテレビ)などバラエティ番組にも出演。メディアを通じて幅広く環境科学の普及に努める。近著『これからの時代を生き抜くための生物学入門』(辰巳出版)が好評。



前編では、現在起きている生物多様性の危機や、人間へのリスク、クルマが環境に与える影響とその対策についてうかがいました。
後編では、スウェーデンと日本の自然観やクルマに対する価値観の違いなどを語り合いながら、サステナブルな未来を探ります。



スウェーデンの森はみんなのもの。



マーティン
子どもの頃は私もよく森へ行ったし、生き物と触れ合う機会が多かった。ボーイスカウトをやっていたんです。スウェーデンでは、森や林が街のすぐそばにあります。昔からスウェーデン人はそういう環境で生活してきました。
でも、日本の都市部で身近な自然というと、たいてい人工的に造った公園ですよね。だから、日本に来たスウェーデン人はたいてい、森はどこ? 林はどこ? もっと自然と触れ合いたい!となります(笑)。
スウェーデンには、私有地となっている森や林にも自由に入って、ベリーやキノコを摘んでいい「自然享受権」という権利があるんです。ただし、自然を壊してはいけません。
五箇
自然観が非常に崇高というか、モラルがいまだきちんと維持できているんですね。
マーティン
なぜかというと、スウェーデンは冬が長くて日照時間が短く、むしろ人間にとってすごく厳しい環境だから、みんなで燃料や食糧となる自然を維持していかないと大変なことになる。資源を使いすぎると、冬は生き残れないんです。たぶん、そういうところから来ていると思います。


オープンテラスにて。



五箇
利己的に走らないんですね。自然というものをベースにした価値観があって、自然と共生するスタイルをずっと貫いている。その背景には自然の過酷さがあって、だからボルボみたいな、いかにも頑丈そうなクルマが生まれた。
マーティン
そうです。人を守るために。スウェーデンでは、クルマは必要不可欠なツールなんです。
五箇
シューズと同じですよね。
マーティン
ええ。移動しないといけないですから、安全で快適という機能が大切です。日本では、クルマは平日にほとんど走っていないですよね、家に置いてあるだけで。実際に使われているのは時間にすると平均で3%くらいしかない。
五箇
日本にはクルマは宝物みたいな感覚がまだあると思うんですよ。ものすごく大事にして。
マーティン
だから日本ではペイントにとてもこだわるんですか。
五箇
ピカピカにしてね。バンパーが傷ついただけで大騒ぎになる。バンパーは本来そのためにあるのに。
マーティン
やはり考え方が違うんですね。スウェーデンではクルマはツールだけれど、日本ではステイタス。
もう一つ、スウェーデンと日本で感じる大きな違いが、コストへの意識です。スウェーデンではたくさんの議論がされてきたから、サステナビリティにはコストがかかるのだということが理解されています。だから、サステナビリティのためにならコストを払う。一方、日本では「安さ」が重視されます。でも、サステナブルなプロダクトは安くできないんです。だから難しいです。


虫を飼って育てる稀有な国、日本。



五箇
日本にも、実は江戸時代、さかのぼれば縄文時代には、スウェーデンと同じように自然をリスペクトして、平和で楽しく暮らしていた、いい時代があったんです。「足るを知る」というのが本来の文化でもあった。日本にも四季があって、厳しい冬もあるし、標高差が大きい上に北から南まで長いし、地震や台風にもさらされる。だから自然に順応するしかなく、そこから否が応でも、足るを知った。
マーティン
やはり日本にも昔は、限られた資源を維持し、分け合っていくための知恵というものがあったのですね。
五箇
特に「里山」という形で境界線、ゾーニングエリアをつくって、自然とバランスをとっていたんです。里山という循環システムよって生物多様性が支えられ、驚くべきことに開国するまで1万年間も閉じたまま、この国の資源だけで生き続けてきた。奇跡の国ですよ。
生き物でも同じなんですよ。それぞれの環境に適応して、その環境ごとに違う遺伝子を持つように進化して、全体の多様性を維持している。みなが同じ遺伝子をもっちゃうと画一化して、環境変化に適応できなくなってしまう。
文化も同じ。国や地域に適した、その環境に応じたやり方を取るということが大事で。ちょっとずついいとこ取りでやることで進化させれば、それぞれに固有性、独自性を保ちながら、さらに発展させることができる。今のようにグローバル化しちゃったら、何でもかんでも一緒くたになっちゃう。それってやっぱり面白くないじゃないですか。
マーティン
確かに、世界中がみな同じになってしまったらつまらない。日本には日本の、スウェーデンにはスウェーデンの自然環境があって、昔の人たちはそれに応じた付き合い方をしてきました。そういう歴史の中で、さまざまな文化が育まれてきた。そこは大切にしていきたいですね。
五箇
面白いのが、日本人ほど虫の飼育が好きな国民っていないんですよ。海外では「なぜあんなものをペットにするの?」「食べるの?」とか言われる。
マーティン
カブトムシとかですね。私も日本に来て驚きました。スウェーデンではないです。カブトムシを売っているのは、日本だけですよ。




五箇
これは、まさに日本人が里山を含めて自然と一体となって生きる中で、彼らに対して異常なまでの愛情を持つようになったからではないか。クワガタ、カブトムシなんかは、幼虫たちが雑木林の切株や朽木をバリバリ食べて、いい土壌をつくってくれる。森も豊かになるし、やがては畑や田んぼも潤して、川をつたわり海の資源も豊かにするというリサイクルシステムをつくっていた。彼らがいるからたくさんの実りがあるということを、たぶん日本人は直感的にわかっていて、それで仲良くなっちゃったという。これは私が考えている「クワガタ里山論」という妄想段階の自論なんですが(笑)。
マーティン
虫にも家族のような愛情を持つようになってしまったということですね。面白い。それだけ、かつての日本では自然や生き物が生活の身近にたくさんあった。そう考えると、実はスウェーデンとも似たところが少なくないように思います。
五箇
そうですね。
日本の場合、いちばん肝心なサステナブルのもとは何かというと、リサイクルですよ。資源をちゃんと循環させるということが大事で。今はコストがかかるといって逃げ腰になっているけど、いかにすべてをリサイクルしてうまくやっていくかが日本の課題です。
これは、我々人間が生き残るためにやらないといけないことなんです。自然を守るのではなくて、人間社会を守る。我々の次の世代が安心して生きられる環境を守れるかどうか。
マーティン
まずは環境への意識ですね。
ボルボでは、もうじき電気自動車を出すんですが、シートはレザーフリーにするんです。でも「外車はやっぱりレザーシートでしょう」などと言われる。本当にレザーシートが必要でしょうか? レザーシートをつくることは、環境にとって良いことではない。「レザーでないとプレミアム感がない」というような考え方をまずは、変えていかないといけないと思います。
最後に、先生の研究の原動力ってなんですか?
五箇
面白いから。好奇心ですよ。見たことのないもの、知らなかったことを発見して、それを論文にして発表して、世の中を動かす。生物学から見ると、なぜ我々が環境を考えながら前進しないといけないか、ということが見えてくる。それは我々も人間という生き物だから。いろんなヒントがそこに隠れているんです。
マーティン
ほんとうですね。忘れがちなことですが、私たちも地球を住みかにしている生き物なんだと考えてみると、世界の見え方が少し違ってくる気がします。
今日はとても面白かったです。ありがとうございました。




五箇先生の生物学の視点からのお話は、とてもわかりやすく説得力がありました。日本独自の文化や生態系のシステム、スウェーデンとの違いや共通点なども興味深かったです。トータルで環境に負荷を与えない産業をつくるという課題を私たちも一つずつ解決すべく、サステナブルなモビリティへのチャレンジを続けていきたいと思います。



聞き手:ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長 マーティン・パーソン

1971年スウェーデン生まれ。明治大学に1年間留学して経営学を学び、1999年ボルボ・カーズ・ジャパンに入社。約10年を日本で過ごす。その後、スウェーデン本社でグローバル顧客管理部門の責任者を務め、ロシア、中国などを経て、2020年10月、ボルボ・カー・ジャパンの社長に就任。12年ぶりの日本で楽しみにしているのは、温泉地巡り。日本の温泉は、旅館や料理などトータルに楽しめるのはもちろん、温泉地の豊かな自然が何よりの癒し。目下の関心事は、「ビッグフィフティ(Big 50th Birthday)」。スウェーデンでは日本の還暦同様に重要な「50歳の節目」を迎える。