企業の社会的責任 2023/12/21

Stories of Sustainability vol.14

スウェーデンのファストファッションの象徴であるH&Mは、持続可能性に舵を切り、サステナブルな素材の活用の他、服の修理やレンタルビジネスにも挑戦している。



MANABU[まなぶ]
Stories of Sustainability
スウェーデンなど北欧諸国をはじめ各国のサステナビリティな文化慣習や、取り組みをお伝えするのが「Stories of Sustainability」。未来を変えていくアクションやヒントを“まなぶ”。



善良な企業理念に賛同して、製品やサービスに対価を支払う時代へ



豊かさを求めて、先進国をはじめ一部の地域が、今日のように発展した結果、地球全体の環境が破壊され、気候変動に歯止めが効かない状況が続いています。異常気象が原因で砂漠化が進み、食料が不足したことで、食べ物を生産できる豊かな土地を奪い合う戦争が国際秩序を混乱させ、貧困率増加にも結びついています。

環境問題の定義や原因を簡単にまとめることはできないにしても、この主な要因を挙げるとするならば、人間活動が引き起こした森林破壊、地球温暖化、水質汚染、海洋汚染、大気汚染の五大環境問題を問うことができるのではないでしょうか。

また、世界のあらゆる場所で、児童労働や強制労働などの人権侵害が行われている事実も忘れてはいけません。国連児童基金ユニセフによる2020年の報告では、世界中の子どもたち5歳から17歳の10人に1人が、義務教育を受けられずに、劣悪な環境の中で危険な重労働を虐げられているそうです。
オーストラリアの人権団体ウォーク・フリー財団と国際労働機関(ILO)が、国際移住機関(IMO)とともに作成した2021年の報告書には、約2,800万人が強制労働に従事させられ、さらに約2,200万人が強制結婚させられていると記されています。合わせて約5,000万人もの人々が巻き込まれ、今この瞬間もほとんどの国に存在しているのです。驚くべきことは、これだけ持続可能性やSDGsが声高に語られる今日においても、増加しているという事実です。

私たちが毎朝何気なく飲むコーヒーの豆や、気分転換に食べるチョコレートの原料であるカカオは、こうした子どもたちが収穫をしているかもしれません。手頃な価格だからと、なんとなく購入したワンピースやシャツの原材料であるコットンは、そんな約5,000万人もの強制労働を虐げられている人たちが種を蒔き、育て、摘み取ったものかもしれないのです。このような出来事は、遠い国で起こっていることとは限りません。土地の乱開発や工場排水の垂れ流しなどによる環境破壊や人的被害は、多くの自治体で問題視されています。Made in Japanをうたう製品であっても、他国から来日した人たちが、故郷を離れ低賃金で雇われて製造しているかもしれません。そして大量に生産されたそんな製品が、たくさん売れ残り廃棄され、それらが環境に悪影響を与え続けているのです。

このように世界的に多くの課題がある中、CSR(Corporate Social Responsibility)が今まで以上に注目されています。CSRとは、企業がサービスの提供や利益だけでなく、人権問題、労働環境、自然保護など社会全体に責任を持つことを言います。日本でも1970年代ごろから「企業の社会的責任」という言葉が広まりを見せてはいたものの、その思想は経済活動とは切り離され、収益の一部を社会貢献に回すなど、企業の印象をよくするためのPRに活用されていました。

一方、ヨーロッパでは、CSRは社会全体の持続的発展、環境や労働問題の改善に対する、企業の未来投資と考えられています。そのため消費者に対するイメージ向上を狙ったものや、慈善活動だけではそれに値しません。社会問題解決への貢献のみならず、事業活動の一部として包括的に取り組む必要があります。人権や地球環境に対する取り組みだけでなく、原材料・部品の調達、デザイン、製造、在庫管理、配送、販売、マーケティングに至る全体的な流れであるサプライチェーン、そして製品が寿命を終えるまでの、あらゆる側面での対策と捉えられています。今では企業の競争力を助長するものとしても考えられており、CSRの意味合いは年々拡大しています。



2024年で75周年を迎えるモジュールシェルフString。
String Furniture



来年誕生75周年を迎えるモジュールシェルフStringをはじめ、品質の高い家具を販売するスウェーデンの企業「ストリング ファニチャー(String Furniture)」はその良い一例です。1949年にどこよりも早く同ブランドが採用したフラット梱包は、運送中におけるCO₂削減に大きく寄与し、配送料や保管料のコストを削減し、規格化されたデザインによる生産効率の高さから、消費者がより手に入れやすい販売価格を実現しています。また、同社製品の特徴である無限に拡張・改良可能な多機能性・汎用性、そして流行に左右されないデザインは、何世代にも渡って長く使い続けることができるため、天然資源の消費量削減に結びついています。

CSRの取り組みは、このような表層的な観点だけではありません。一つひとつの素材の供給元を完璧に把握しながら、現状を調査して改革・改善し、透明性をもって社会へ説明する務めがあります。例えば、同社製品の98%を占める主な素材スチールと木材のうち、スチールは100%リサイクルされたスウェーデン製が使用されていますが、その原材料の仕入先は、生産に再生可能エネルギーを98%使用し、2030年までにCO₂総排出量を50%削減することを目標とするノルウェー企業であると伝えています。また、EU木材規則(EU Timber Regulation)に則った全木材のうち、68%がFSC認証(社会的条件が整い、持続可能に管理された森林から供給された木材に発行される規格)を取得しており、これを2023年末までにこの数値を100%に引き上げると宣言しています。また、生産工程で生じる木の廃材は破砕して、木材製造工場のエネルギーとして再利用されており、さらに鉱さいやダスト、ガスなどは、セメントや鉄、電気の生成に活用され、原材料の無駄を可能な限り削減しています。同社のオフィスと全ての関連工場では、化石燃料を一切使用しない電力を導入することに成功したそうです。その他にも全梱包材の0.86%を占めるプラスチックの完全廃止に向けたプロジェクトの実施、児童・強制労働に関する国際労働機関の条約に支持するなど、これら情報はホームページ上で共有され、随時更新されています。

2023年、欧州理事会はEU市場に出回り売れ残った衣類品を、企業が廃棄することを禁止すると発表しました。これは廃棄物をなくすことを目標とするグリーン推進施作の一つであり、耐久性の向上や再利用・修理可能な製品開発と生産を後押しすることを目的としています。そして、このような発想で生まれた製品の購買促進を、消費者に促すことをも意図しています。
これにともない、ファストファッションを率いてきたメーカーを含む各企業が、原材料に再生可能な素材を活用し、売れ残った商品を新しい製品に作り変えるなど、リデュース(削減)・リユース(再利用)・リサイクル(再資源)に向けた取り組みを強化しています。
この分野で先駆的なファッションブランドの一つであり、今年で創立30周年を迎える「フィリッパ コー(Filippa K)」は、1993年の創業以来、一貫してシンプルで上質な製品開発に取り組み、意識の高い消費を働きかけてきました。「循環性」「トレーサビリティ(追跡可能性)」「悪影響の軽減」を持続可能性の3大柱として、2012年から毎年ホームページにサステナビリティレポートを公開しています。レポートが100ページを超えた年もあるほど、あらゆる観点で透明性を重視していることがうかがえます。



持続可能な素材の活用、透明なサプライヤーチェーン、回収可能性、CO₂排出量の最小化など、12の基準に従って開発された、長く使える衣類を製造することに焦点を置いたフィリッパコーのアイテム。
FilippaK/imagebank.sweden.se



また、今日スウェーデンでは会員費で運営される、メンバーシップ型ビジネスが増加しています。いわゆるサブスクリプションとも言いますが、その先駆けとして今、最も注目されているのが、スウェーデンの大手アパレルメーカーH&Mが、2020年に発足した「シンギュラーソサエティ(Singular Society)」です。高品質で流行にとらわれない、長く使い続けることができる衣類や化粧品、雑貨やワインなど、暮らしに関わる様々な製品を、環境や同ビジネスに従事する人たちに配慮しながら、大量生産せずに販売しています。原価を基盤に小売価格が設定されており、製品自体が企業の収入源になるのではなく、会員へのサービスとして製品を提供するという、全く新しい視点のビジネスモデルです。
現在、旗艦店はストックホルムのみで、主にオンラインで製品を取り扱い、月々95クローナ(約1,350円 ※2023年11月時点、最低契約期間12ヶ月)の会費を支払うことで、原価で衣類や生活用品を購入することができます(現時点ではEU圏内のみ)。顧客はブランドの考え方に共感して責任ある買い物ができるだけでなく、高い品質のアイテムを満足感と誇りをもって長期にわたり愛用しながら、企業とともに社会への責任を果たせるというわけです。



消費者一人ひとりが高い意識を持ち、責任ある消費をすることが、各企業のCSR活動を促進する。
Simon Paulin/imagebank.sweden.se



このようにCSRが注目される昨今ですが、そもそも多くのスウェーデン企業の理念には、これらが根幹に存在しています。それは国民一人ひとりが意識をもって生活を営む、成熟した社会が形成されてきたからではないでしょうか。
株主やステークホルダー、そして消費者が、豊かさの本質を再考し、こうした企業の体質や取り組みに対して意識を高めることが重要です。そうすることで企業それぞれにCSR活動を促すことができ、環境と経済と社会のバランスが保たれることにつながります。善良な企業理念に賛同して、製品やサービスに対価を払う時代がすでに始まっています。