【旅する】よりよい地球をつくる旅に出よう 2023/08/31

Let's start a sustainable life vol.6

Let's start a sustainable life
スウェーデンの事例を中心に、サステナビリティをよりわかりやすく伝える活動を続けている「One Planet Café」のエクベリご夫妻から、サステナブルライフを実践するための新しい視点やアイデア、モノの選び方を“まなぶ”。



飛行機から見える、スウェーデンマルメ市とデンマーク・コペンハーゲン間に連なる洋上風力発電。



近い移動では電車を選ぶ。飛行機以外の選択肢をまず検討



「“Flight shame(飛ぶことは恥ずかしい)”“飛び恥”という言葉をご存知でしょうか。この新しい概念は、私の母国スウェーデンで生まれ、欧州では既に大きな影響力を持っています。欧州の人々は、飛行機はCO₂排出量が圧倒的に多い交通手段だという事実を認識し、行動を始めています」

こう話すのは、One planet café のペオ・エクベリさんです。スウェーデンでは2019年の時点で、国内線の乗客数が前年比8%減少し、国際線でも3%の減少になったそう。ペオさん自身、日本やスウェーデン国内を移動する交通手段は電車を基本にしています。



電車には「Bra Miljöval(よい環境選択)」のエコラベルマーク。再生可能エネルギー100%であり、かつ発電所周辺の環境と動植物の保護も考慮されていることを示すスウェーデン自然保護協会が管理。



「とくにスウェーデン国内の場合、飛行機か電車かの選択で、CO₂排出量が大きく変わってきます。スウェーデン国鉄は100%再生可能エネルギーを調達しているからです。3時間の電車移動と飛行機移動を比べると、電車は飛行機の0.00001%のCO₂しか排出しない計算になります」(ペオさん)



飛行機を使う時は「カーボンオフセット」のプランを選ぶ



欧州全体に目を向けると、直接的に飛行機利用を規制する動きも生まれています。フランスでは、今年2023年5月、鉄道で移動可能な国内短距離の航空機移動を禁止するという法律が施行されました。そしてこの法律を受け、鉄道で2時間半以内に移動できるフランスの航空路線は廃線となりました。



デンマーク・コペンハーゲン中央駅に掲示されていたデンマーク国鉄の広告。コペンハーゲンからオーゼンセまで車ではなく電車を利用するとCO₂を14 kg 節約できることを訴える。



「航空業界は今、持続可能な航空燃料=SAF(Sustainable aviation fuelの略)の開発と実用化を急ピッチで進めています。植物などのバイオマス由来の原料や廃食油などを原料にした燃料で、CO₂排出量を大幅に抑えることができます。環境に配慮しながら空の旅を楽しめる未来はそう遠くはないはずです」とペオさんはSAFに期待を寄せます。しかし現状では、SAFの使用はごく一部に限られ、開発段階です。ペオさんは、飛行機を利用する時には、「カーボンオフセット」の視点を取り入れようと呼びかけます。

「航空会社は、飛行機移動にかかったCO₂排出量を相殺するカーボンオフセットプランを用意しています。私も、日本とスウェーデンや、バナナペーパー事業を行うザンビアを年に何度も往復する必要があり、もちろん飛行機を使います。その時には、こうしたカーボンオフセットプランを必ず申し込んでいます」(ペオさん)

例えば日本航空(JAL)の場合、「JALカーボンオフセット」というオプションプランがあり、専用WEBサイトにアクセス、空港を入力することで、推定CO₂排出量とともに金額が表示され、クレジットカードで購入できます。オフセットの資金は、気候変動対策プロジェクトの支援金となり、CO₂排出量を「差し引きゼロ」の状態にするために使われます。一歩進んだ取り組みとして知られるのが、ドイツ・ルフトハンザ航空の「グリーン運賃」です。ヨーロッパ全域で導入されたこの運賃を選ぶと、SAFの使用でCO₂排出量が20%削減され、残り80%は気候変動プロジェクトでオフセットされます。オプションではなく、最初から選択肢として提示されていることや、SAF開発を後押しする仕組みが注目されています。



よりよい地球のために、サステナビリティを学ぶ旅へ



エクベリ聡子さんは、「飛行機での移動は確かにCO₂を排出しますが、よりよい地球をつくっていくための飛行機の利用は必要です。私たちの事業のひとつに、日本のみなさんをスウェーデンにお連れして、サステナビリティの取り組みを実際に見て体験していただくというツアーがあります。たくさんのCO₂を排出して移動していただきますが、飛行機でかかるCO₂分をオフセットできる内容提供を意識しています」と話します。

One planet caféは、創業当初からスウェーデンサステナビリティツアーを手がけており、コロナ前は年10回を超えるペースで実施していました。交通機関や小売店、飲食店、商業施設やビジネスオフィス、公園、一般家庭など、スウェーデンの街を歩きながら、至る所で見ることのできるサステナビリティの事例を、ひとつひとつピックアップして解説します。約1週間のツアー中に、画期的な取り組みを行う企業や団体を訪問し、講演会やワークショップなどのプログラムを行うこともあります。コロナ禍ではオンラインでの開催を余儀なくされたものの、2023年から現地ツアーを再開しているのだそうです。



2023年7月に行われたスウェーデンサステナビリティツアーのペオさん、聡子さん。



「ツアーを再開して、スウェーデンのサステナビリティは止まることはなく、進化し続けていたのだと実感しているところです。スウェーデンの人々が明るくポジティブに、サステナビリティをどんどん進めていく姿を目の当たりにして、未来に希望を持てるようになったという参加者からの感想をよくいただきます」と聡子さん。一方ペオさんは、「このツアーで、日本の参加者はConfidence、自信を持てるようになります」と話します。

「サステナビリティ先進国であるスウェーデンを実際に見て、比較できる基準を知ることで、自分のやっていることは間違っていなかった、という自信を深めて帰国する方がたくさんいます。日本にも素晴らしい取り組みはたくさんあるのです。ツアーを経験すると、参加者自身がさまざまなサステナビリティに気づき、自信を持って語ることができるようになります。そして、参加者が周囲によい取り組みを知らせたり、支援したりといったアクションを取れば、日本国内のサステナビリティもどんどん育っていく。飛行機を使ってでも、実施する価値のあるツアーだと思っています」(ペオさん)



監修:株式会社One Planet Caféエクベリ聡子さん、ペオ・エクベリさん

環境循環を基盤としサステナビリティに貢献するビジネスを生み出すことをミッションに、日本企業にむけた講演・ワークショップ、スウェーデンとザンビアでの視察ツアー、クライメートポジティブを達成したバナナペーパーの事業を展開。日本 、スウェーデン、ザンビアに拠点を持つ。2016年国際フェアトレード認証取得、2020年経済産業省作成のSDGsに取り組む企業事例15社の1社に。One Planet Caféの名前には、人と生きものが共存する一つの地球、地球1個分の暮らしとビジネスへという想いが込められている。