受け継がれるサマーコテージ 2023/06/29

Stories of Sustainability vol.13

MANABU[まなぶ]
Stories of Sustainability
スウェーデンなど北欧諸国をはじめ各国のサステナビリティな文化慣習や、取り組みをお伝えするのが「Stories of Sustainability」。未来を変えていくアクションやヒントを“まなぶ”。



100年以上前に建てられた小屋を活用したサマーコテージ。
Lina Roos/imagebank.sweden.se



自然の中で過ごす豊かな時間



一年で最も日照時間が長くなる夏至の日を軸として、スウェーデンは今、最高の季節を迎えています。北極圏で見られる白夜まではいかないまでも、首都ストックホルムでは日の出が午前3時30分ごろ、日の入りが午後10時10分ごろと日照時間が長く、湿度が低くて爽やかで過ごしやすい日々が続きます。長くて暗く寒い冬をじっと耐え忍んできたスウェーデンの人々にとって、一年間待ちに待った楽しく幸せなシーズンとなり、彼らの心は解放されて、気持ちのボルテージが最高潮に達します。子供たちはというと、6月初旬から始まる夏休みに心躍る季節。この夏季休暇は8月半ばまで約2ヶ月間続きます。そして子供たちの休みに合わせ、大人も1ヶ月ほどの休暇を取り、このうち終盤の数日間はサマーコテージに出かけることが一般的です。



最近、日本語の“森林浴”をスウェーデン語に訳したSkogsbad(スコーグスバド)という言葉が注目されているそう。スウェーデンの人たちが当たり前のように行っていた森の中での穏やかな時間の過ごし方が、日本文化に影響され一つの言葉で表現されるように。
IBEACON



統計ではスウェーデン人の約2割がサマーコテージを所有し、6割の人が身近に利用できる環境にあると言います。この数字はヨーロッパの中でも高い割合です。一方で日本の場合、総務省が5年ごとに実施する「住宅・土地統計調査」の2020年のデータによると、「二次的住宅・別荘」は約38万戸で、全世帯数の0.7%とされています。

スウェーデンのサマーコテージも休暇やその他の余暇を一時的な住居として過ごすための場所ですが、いわゆる日本の別荘のような、一部の人が持つ特別なものではありません。煌びやかさは少しもなく、その立地も都心から離れた高級な別荘が立ち並ぶようなエリアではありません。自宅から車で20〜30分程度の近距離にあり、森の中や湖の辺り、海沿いに、昔ながらの古い小屋がポツンと建っているような素朴な印象です。親から子へと代々受け継ぎながら、長く大切に使われてきたコテージは、一族全員で所有することも多くあります。



リノベーションは自分で行うのが一般的。一緒に遊びながら子供も施工技術を学ぶ。
Kristin Lidell/imagebank.sweden.se



実はスウェーデンのサマーコテージも、もともとは富裕層の特権でした。労働と余暇の明確な区別がなかった時代において、別荘は当時の貴族が都市部郊外に建てる特別なものでした。しかし第二次産業革命により機械化が進むと、経済発展にともない労働者階級の所得が大幅に増加し、時間的余裕が生まれました。また1938年に労働者層の一部に対し、当時年間で2週間の休みを取得できる法律が施行されたことが、スウェーデン人の休暇の過ごし方に大きな変化をもたらしました。第二次世界大戦を経てより経済が発展すると、木材輸出を国家の経済戦略の一つとする政府の意向を踏まえ、国内で使用する木材を節約するために、生産効率のよいプレハブ住宅が普及していきました。1960年代に入ると、夏場に多かったプレハブ住宅の売上を一年中維持するため、冬場に別荘の製造を増やした住宅メーカー数社の計画により、多くの中流階級がサマーコテージを所有するようになりました。

また、もう一つの歴史背景も存在します。その起源は遡ること17世紀、インデルニングスヴェルケット(Indelningsverket)という制度によって、功績を挙げた軍人に、食料や小物、そしてソルダトルプ(Soldattorp)と呼ばれる高さ約2m、広さ8 x 4mのほぼ同じ間取りの戸建て住宅を、国が分配したことに始まります。当時はそこを住居としていましたが、極寒のスウェーデンにも関わらず、壁や床が簡素な作りで、窓は一層ガラスというところが少なくありませんでした。時が経つにつれて、そのような性能の低い小屋は、温暖な夏の間だけ使われるようになり、多くの人がサマーコテージを所有する文化に発展したとも言われています。

スウェーデンではサマーコテージのことを、自由時間の家(フリーティドスヒュス(Fritidshus))とも言います。その名の通り、そこでの時間を好きなように過ごすための場所であり、夏だけ使うものではありません。とはいえ、古い昔ながらの建物を活用している人が多く、何十年、何百年と経過したコテージであっても、住居として使うわけではないため、最低限のリノベーションが施されている程度です。断熱材は入っておらず、手洗いは外にあって汲み取り式、水道や電気が通っていたとしても、シンクに蛇口が付いておらず、庭の手入れ用に引いた水道から水を汲むといった状況です。故に最も使用頻度が高いのが夏のシーズンというわけです。



サマーコテージに多く見られる屋外トイレ。便座に至るまで全て木造だが、清潔感がありストレスを感じない作り。
Sonia Jansson/imagebank.sweden.se



しかし冬の間も時々ねずみなどの動物に、室内や庭を荒らされていないかなど確認作業が必要で、年中時間ができるとコテージに向かい管理を怠りません。そして比較的、屋外での作業がしやすい春先になると、本格的に夏に向けての準備が始まります。周辺を囲う塀や建物の外壁をペンキで塗り直したり、デッキを作ったり、2つの部屋を一つの大部屋に改装するなど、自分たちで修繕修理を繰り返して大切に維持しています。少しばかりの不自由さえも楽しみながら、自然の中で過ごす時間に価値を見出しているのです。

またサマーコテージでは、そこに寝泊まりせずとも、工事や庭仕事の合間を縫って、屋外でランチをしたり、読書を楽しんだり、週末にみんなが集まり庭でバーベキューをするなどして、特別なことは何もせず家族との時間をゆったりと過ごします。



外の空気や自然を感じられる太陽の下で、食事をするのがスウェーデンの人々の喜び。
Christofer Dracke/Folio/imagebank.sweden.se



自然の中に身を置くことは心身ともにリフレッシュができ、ストレスの軽減に繋がると言われています。また、その美しさや豊かさを体感することで、自然に対する敬意が生まれ、環境保護や持続可能性に対する関心が高まります。スウェーデンの人々は自然の中で過ごすことのメリットを、身をもって知っており、常に自然と密接です。自宅からすぐ近くにサマーコテージがある理由もうなずけます。

サマーコテージでの過ごし方や自然との対話、そして長く培われた趣あるものを自らが管理して受け継いでいく文化は、スウェーデンの多くの人たちが実践している、サステナブルな暮らしの一つです。