【移動する】地上で循環するエネルギーを動力源に。楽しく多様な次世代のモビリティ 2023/01/31

Let's start a sustainable life vol.5

Let's start a sustainable life
スウェーデンの事例を中心に、サステナビリティをよりわかりやすく伝える活動を続けている「One Planet Café」のエクベリご夫妻から、サステナブルライフを実践するための新しい視点やアイデア、モノの選び方を“まなぶ”。



スウェーデンでは再生可能エネルギーの一つとしてバイオガスが広く普及。市バスや国鉄でもバイオガスが一部活用されている。



スウェーデンでは移動の選択肢が多様で、その多くがサステナブル



サステナブルなモビリティ社会とは? 環境負荷の少ない暮らしを実践する時、最初にこの疑問が思い浮かぶかもしれません。カーボンニュートラルの実現には、化石燃料を使った移動手段を見直すことが不可欠。ガソリン車の生産見直しが世界の潮流となるなか、 日本政府も2035年までに乗用車の新車販売をすべて電動車とする方針を発表しています。



バイオガスで走るスウェーデンの市バス。「Bra Miljöval」は日本語で「良い環境選択」という意味で、再生可能エネルギーを使っていることを示す環境ラベル。



しかし、ガソリン車がスタンダードではない社会は、日本ではまだまだ先のことと感じられます。環境先進国のスウェーデンではどうなのでしょうか。One Planet Caféのペオ・エクベリさんに、自身が生まれ育ったスウェーデンの交通事情を尋ねました。

「電動自動車の利用は、この数年でかなり広がってきています。既に、新車販売の約2台のうち1台が電動自動車です。そもそもスウェーデンでは、電動自動車以外にもさまざまなサステナブルな移動の選択肢があるんです。スウェーデンの国鉄も、首都ストックホルムを走る市バスも、家庭の生ごみから作られるバイオガス燃料などを利用しています。車の利用を減らすため、トラム(路面電車)も再導入されました」とペオさん。他にも、車や自転車、電動キックバイクのシェアサービスも広がってきていると言います。

「スウェーデンの人たちは、その日の天気、自分の健康状態や気分に合わせて移動手段を選びます。何も考えずに選んでも、結果としてそれは環境に配慮した移動になっているんです。楽しくて多様なモビリティの発達が、サステナブルなモビリティ社会を作る鍵になると私は考えています」



地上で循環するエネルギーを活用し、環境負荷が少ない移動を



ペオさんは、移動を考えるとき、それがどんなエネルギーで動いているのか、という点に注目してほしいと言います。



スウェーデンでは生ゴミも重要なエネルギー源。住民は無料の紙袋を利用し、回収してもらう仕組みになっている。



「電動自動車も電動自転車も、充電する電気が化石燃料由来であれば、それはサステナブルではありませんよね。私がよくお伝えするのが『地下?地上?』というサステナブルの判断基準です。ガソリンは、地下から取り出した燃料。一方、スウェーデンの市バスが燃料としている生ごみは、地上で生産された食料ですね。地上で作られたものを循環させて動力とすれば、それはサステナブルな移動になります」

エクベリ聡子さんは、電動自動車を購入するタイミングは、自身が契約する電力会社を見直す良いきっかけにもなると話します。

「例えばVOLVOさんは、ソフトバンクさんの『自然でんき』とタイアップして、電動自動車を購入した時にスムーズに再生可能エネルギー100%を実現できるサポートをしていますね。これは、とても意義のある取り組みです。車の生産から燃料まで、ライフサイクル全体で考えてこそ、環境負荷を効果的に減らすことができます」(エクベリ聡子さん)



充電による環境負荷も課題。レアメタルなしのバッテリーも開発が進む



ライフサイクル全体で考えると、車両やバッテリーの生産時の環境負荷も気になる要素です。バッテリーにはリンや銅といったレアメタルが使われていることから、レアメタル採掘時の環境負荷、労働環境の改善も、世界的な課題となっています。また、2023年現在の日本では、充電設備が充分整っているとは言えず、走行距離の長い電動自動車の方が安心できるという方も多いでしょう。しかし、1回の充電で長く走るにはバッテリーの大型化が避けられず、生産時の総排出ガス量が多くなってしまいます。

「電動自動車がサステナブルな移動手段となるためには、充電環境の整備は欠かせない課題です。バッテリーが小型でも、すぐに手軽に充電できる環境になれば、ストレスなく利用できるでしょう。スウェーデンでは、全国的に再生可能エネルギーによる充電ステーションが配置されており、それと同時に電動自動車が普及してきています」とペオさん。

また、スウェーデンのスタートアップ企業では、レアメタルを使わないバッテリーの開発が進んでいるほか、レアメタルのリサイクル技術の開発も進んでいるそうです。



スウェーデンでは店先の充電設備の設置が進むほか、「バイオガス・スタンド」もある。



「ひとりひとりがサステナブルなモビリティについて考えて知り、求めることで、それに応える技術も生まれます。地上のエネルギーで移動することで、負荷を減らすこと(エコロジカルフットプリント)だけではなく、良いことを増やす(エコロジカルハンドプリント)ことにつながります。(ペオさん)



監修:株式会社One Planet Caféエクベリ聡子さん、ペオ・エクベリさん

環境循環を基盤としサステナビリティに貢献するビジネスを生み出すことをミッションに、日本企業にむけた講演・ワークショップ、スウェーデンとザンビアでの視察ツアー、クライメートポジティブを達成したバナナペーパーの事業を展開。日本 、スウェーデン、ザンビアに拠点を持つ。2016年国際フェアトレード認証取得、2020年経済産業省作成のSDGsに取り組む企業事例15社の1社に。One Planet Caféの名前には、人と生きものが共存する一つの地球、地球1個分の暮らしとビジネスへという想いが込められている。