スウェーデンの男女平等 2022/05/19

Stories of Sustainability vol.10

育児休暇は両親合わせて最大で480日間、子供が8歳になるまで取得可能。うち配偶者に譲渡できない休みがそれぞれ60日間ある。年々、父親の育児休暇取得率は増加中。
SusanneWalström/ imagebank.sweden.se



スウェーデンなど北欧諸国をはじめ各国のサステナビリティな文化慣習や、取り組みをお伝えするのが「Stories of Sustainability」です。
未来を変えていくアクションやヒントをご紹介します。



一人ひとりが尊重される社会へ



スウェーデンは女性の社会進出が他国に比べて進む、男女平等の国として知られています。世界経済フォーラムが2006年から毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数にも、その実態が数字として表れています。「政治」「経済」「教育」「保健」の4つのカテゴリーから成る14の指標をもとに、156カ国から情報を収集してランク付けされた2021年の報告書で、スウェーデンは5位でした。特筆すべきは調査開始以来、過去に一度も5位以下になったことがないという点です。(日本は120位)

この上位維持の要因は、男女の賃金格差が他国に比べて小さいことと、管理職の女性の割合や上場企業における役員クラスの女性の割合が多く、さらにこれらの点に年々改善が見られることにあります。加えて育児に対しても、男女共に平等な条件を提供する国であることも理由の一つです。育児サポートに関する公的支出はGDPの1.6%で、フィンランドに次いで世界で2番目に多い支出額です。

また日本ではネガティブに捉えられがちなフェミニズムという言葉、主に女性の性差別からの解放とその考えに基づいた社会運動を指しますが、スウェーデンではとても身近なワードです。フェミニズムを語ることは当たり前で、逆に意見を述べないことは、男女関わらず立場のない状況に陥ります。ジェンダー問題に関心がなく、男女の格差社会を擁護していると受け取られるからです。



スウェーデンでは毎年、ジェンダーに関するカンファレンスや講演、パフォーマンスやパレードなど、数多くのプライドフェスティバルが開催されている。
Sofia Sabel / imagebank.sweden.se



例えば、2020年に開催された北欧を代表するヨーテボリ国際映画祭では「フェミニズム」がテーマとして掲げられました。その目的はジェンダー問題を取り上げて、さまざまな立場や角度から議論することでした。「フェミニズム」に特化した内容の映画だけでなく、監督や主演俳優が女性のものなど、さまざまな作品が上映されました。このようにスウェーデンは、フェミニズムにおいて意識の高い国であり、同じ北欧であっても、隣国デンマークに比べてフェミニストを自称する人の割合が多いと言われています。最近では「Han(彼=英語のHe)」や「Hon(彼女=英語のShe)」の使用でさえも異を唱える人がおり、彼と彼女の中間を意味する新しい代名詞「Hen」という単語を使おう、という議論まで生まれるほどです。ただし、この意見に賛同する人はデンマークで2%、スウェーデンでは7%程度にとどまりました。

スウェーデンの男女平等は、1250年代に当時の国王が、女性に対する暴力を禁じる法律を制定したことに始まります。1845年には男女ともに同等の相続権が与えられ、1921年には女性も選挙権を獲得しました。そして1947年、スウェーデン初の女性の国会議員が誕生しました。

このように書くとスウェーデンがどこよりも早く、男女平等を推し進めているかのように思えます。確かに女性の選挙権については、日本と比べて20年以上も早かったのですが、世界に目を向けると、アメリカの一部の州では1869年にすでに女性が選挙権を得ています。また日本では、女性の選挙権・被選挙権が1946年に同時に認められ、39名の女性の国会議員が誕生しました。初めての女性国会議員誕生に関しては、スウェーデンよりも日本の方が1年早かったのです。

実のところ、戦前のスウェーデンは男社会そのもので、女性の社会参画を後押しした大きな要因の一つは、法律や制度ではなく労働力不足にありました。戦後少しずつ世の中が豊かになるにつれて、働き手が必要になったことに始まり、1970年代に入ると著しい経済発展に伴い、より一層の労働力を補うため、女性の雇用が進みました。同時に福祉国家を目指す当時のスウェーデンでは、税収増加を目論み、社会保障制度や課税単位を世帯単位から個人単位へと移行、日本で言う配偶者控除の撤廃を行いました。女性も働く必要に迫られたのです。税金の支払いが各家庭で増えたことは、子育て世代には大きな負担でした。しかし女性が外で働くことの意義を見出したとも言われています。またその税収によって、保育や介護・医療の場の人員を増加させることに成功しました。つまりスウェーデンの男女平等への流れは、国の経済成長をもうながすものであったと考えられます。

1991年、機会均等法が成立しました。男性女性関わらず同じ立場にある職種の給料を一律に扱う必要があり、その機会を平等に与えなければならないというものでしたが、男女の賃金格差をより具体的に記し改訂されたのは1994年以降のことでした。その後、機会均等法は差別法に改正され、2009年に新たに施行されました。男女間のみならず、性的指向や宗教、国籍、ハンディキャップの有無など、あらゆる差別が法律で禁止され、幅広く平等を推進し始めたのです。



今日スウェーデンでは、消防士を志願する女性が増えている。
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このような法整備のタイミングに関して言えば、実は日本もあまり変わりません。特徴的なのはオンブズマン制度が憲法で明文化され、スウェーデンの国家制度において重要な役割を担っている点です。スウェーデンには消費者オンブズマン、子供オンブズマンなど、大きな権限をもちながら、中立な立場で物事を監視・監督し、国民の権利を保護するさまざまなオンブズマンが存在します。差別法と共に誕生した差別オンブズマンは、労働省管轄の組織でありながら、政府の関与は一切なく、完全に独立した機関で、あらゆる差別をチェックし、改善に向けた活動を行っています。

さらに教育の現場においても男女平等が強調されており、昔ながらの男女の役割分担や思考・行動をうながすような指導は法律で禁止されています。また、皆に同等の権利と機会があり、そして義務があるということは、双方ともにタフな自立を要求されるということです。そのため自立精神の構成要素と言われる「自己決定」「自己選択」「自己責任」「自己投資」の能力を養うための教育が、幼少の頃から行われています。
2014年にはスウェーデン政府が「フェミニスト政府」を自称し、国外に向けてアピールし始めました。世界で初めて政府として、男女平等を掲げたのです。これに合わせてフェミニスト外交を打ち出し、これまでスウェーデンが培ってきた数々の経験とその教訓をもとに、フェミニストマニュアルを作成して、女性の権利向上を世界的に後押しするようになりました。そして2021年11月、ついにスウェーデン初の女性国家元首とトランスジェンダーを公言する学校相が誕生しました。現在スウェーデンの国会議員の約半数は女性が占めており、23人の閣僚のうち12人が女性です。(2022年4月現在)



ストックホルムの旧市街に位置するスウェーデンの国会議事堂。立憲君主制のもと、一院制を採用。議席数は349。
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「フェミニスト政府」では、全ての省庁で予算請求や各分野の政策立案を提出する際に、その内容が平等をうながすか否かを分析した書類を合わせて提出し、審査を受けるシステムが構築されています。誰もが平等な価値を持ち、すべての人に公平な権利と機会が与えられ、性別によって妨げられることのない、最大限の可能性を発揮できる、持続可能な社会を築くための取り組みが見て取れます。
スウェーデンに完璧なまでに男女差別がなく、男性も女性も完全に平等であるかというと、現実はそうではありません。未だに男女間における賃金格差もあれば、経営者層には女性がまだまだ少なく、女性への暴力や健康障害の問題には課題があります。そして両親の育児休暇取得日数は、依然として母親の方が多いのが現状です。
もちろん個々の価値観や考え方の違いはあり、心の底では男性優位性を主張している人がいるかもしれません。とは言え、スウェーデンにおけるフェミニズムとは、女性優位性のことでもなければ、女性中心の考え方でもなく、男女対立を助長させることでもありません。男性であるとか女性であるとか、そういうことでなく、シンプルに一人ひとりが尊重される世の中を実現するということに尽きます。

Ingen kan allt, men alla kan något.
全てが出来る人はいないけれど、だれでも何か出来る。

これはスウェーデンのことわざです。神経質になり過ぎず、個々の能力や個性に目が向けられ発揮できる社会を目指したいところですが、ジェンダー・ギャップ指数では、全体的な平等達成まであと135.6年、経済分野に至っては、あと267.6年もかかる見通しと報告されています。