持続可能な社会を形作るスウェーデンのイノベーション[後編] 2021/09/14

Stories of Sustainability vol.4

MANABU[まなぶ]
Stories of Sustainability
スウェーデンなど北欧諸国をはじめ各国のサステナビリティな文化慣習や、取り組みをお伝えするのが「Stories of Sustainability」。未来を変えていくアクションやヒントを“まなぶ”。



クレジット:Sofia Sabel/imagebank.sweden.se



イノベーションリーダーとしての地位を長年維持する要因とは?



スウェーデンがイノベーションリーダーとしての地位を長年維持できている要因の一つに、福祉国家であることが挙げられます。ベンチャー企業が失敗に終わってしまった場合でも、頼れる社会的セーフティネットがあるということは、起業家がリスクを背負いながらもトライし続ける大きな後押しとなり得ます。もちろんその基盤と言えるのが高い税金を柱とする福祉制度です。教育、医療、保育、介護、年金の大部分を国が引き受ける仕組みによって、病気や失業、家族の世話で収入がなくなってもサポートが受けられ経済的安定が保証されています。

本業の勤務時間以外にベンチャービジネスを開発し、それらを育むための自由な時間を費やすサイドハッスルは世界中から注目を浴びていますが、スウェーデンでは最低6ヶ月間フルタイムで雇用されていた場合、新しいビジネスを立ち上げるために6ヶ月間無給で休職する権利が与えられています。退職にあたり重大な損失を引き起こしてはならず、新規事業が元の雇用主と競合してはいけないという規定はありますが、安心して次のステップに挑めるという点で、この権利を行使するメリットは大きいようです。



新しいブロードバンド戦略を採用し、2025年までに国全体が高速インターネットへの接続を可能にすることを目指すスウェーデン
クレジット:Melker Dahlstrand/imagebank.sweden.se



起業のための申請自体が比較的容易なことも一因しています。事業の内容にもよりますが、オンラインや起業アプリから申請して、数万円の資金で1週間ほどの短期間のうちに起業することができるのです。どの段階においても印刷された書類は一切登場せず、全てオンライン上でやりとりが交わされます。この結果、現在スウェーデンはアメリカのシリコンバレーに次いで、世界第二位のスタートアップ企業の聖地として知られるようになりました。

さらにスウェーデン政府は研究開発に対して国内生産GDPの3%以上を投資しています。グリーンテクノロジーとライフサイエンスは、スウェーデンの研究者と企業が得意とする分野であり、これをさらに推進するため、国家戦略の策定に特化したライフサイエンスオフィスを設立し、政府機関ヴィノヴァが研究の中心的な役割を担っています。

2002年にスウェーデン政府内に創設された、新規事業への取り組みをサポートする非営利団体スティング(STING)は、年間25-30のストックホルムを拠点とする新規スタートアップ企業を支援しています。資金援助やリクルートメントのほか、様々なイベントやプログラムを通してネットワークの構築やマーケティング活動をサポートし、イノベーターと起業家を繋ぎ合わせています。世界レベルの事業開発支援とネットワークを提供することにより、将来のグローバル成長企業の構築に貢献し、未来を担うテクノロジー企業を成功に導いているのです。

スティングは投資会社を中心として企業、政府、大学の産官学一体となった組織です。そのため収益を新たな投資に回す持続可能な仕組みが整っています。このエコシステムと価値のある提議は年々発展し続けており、様々な組織が同様の形態で活動を促進するための良い模範となっています。また、多くの企業が大学での研究と開発に対し資金提供を前向きに進めており、若い世代が整った環境のもとで、イノベーションを起こしやすい土壌が築かれています。

このような仕組みに加え、スタートアップを望む若者たちはお互いを競合とみなさず、双方ともに刺激をしながら全体のボトムアップを目論む点はとても特徴的であり、スウェーデン特有の教育が生かされていると言えます。情報交換・情報開示を行って、繋がりを大切にしながら、時にはともにタッグを組むことで、新たなイノベーションの連鎖が生まれていることに納得がいきます。



大学の研究と新興企業や確立されたテクノロジーコングロマリットを融合させたクリエイティブなネットワーキングソリューション
クレジット:Simon Paulin/imagebank.sweden.se



より便利な社会を築く上でイノベーションはなくてならないものです。しかし便利なだけでなく、より良い社会を見据えたものでなければなりません。

今日におけるより良い社会とは持続可能性のもとに人も自然もお互いが幸せである必要があります。次の時代を担う人々のニーズを満たす機会が危険にさらされることなく、もちろん今を生きる我々や社会のニーズを満たすことが大切です。高度な技術だけでなく、文化的要素も求められています。環境、経済、そして社会におけるウェルビーイングに至る全てにおいて、あらゆる角度から成立させなければなりません。他国よりも早い時期にこのような点を考慮して物事を推し進めてきた点で、まさにスウェーデンはイノベーションリーダーとして相応しい立場にあると言えます。福祉政策、自然教育、そしてナラティブなものづくりがスウェーデンの革新を生み、持続可能性を形作っているのです。