経済成長をしながら、サステナブルな社会を実現。[前編] 2022/12/23

エクベリ 聡子&ペオ・エクベリ(株式会社One Planet Café) × マーティン・パーソン #01

TAZUNERU[たずねる]
ボルボ・カー・ジャパン社長のマーティン・パーソンが、これまでにない捉え方やアイデア、技術でサステナブルな活動に取り組み、各界でイノベーションを起こしているリーダーたちを“たずねる”。



「ワンプラネット・カフェ」の日本の拠点、東京オフィスのある虎ノ門のコワーキングスペースにて。



株式会社One Planet Café  CEO/代表取締役社長

エクベリ 聡子(エクベリ さとこ)
日本出身。2007年アフリカ・ザンビアで、大人の学び場「One Planet Caféザンビア」を共同で設立。サステナビリティの具現化に向け、日本とアフリカの対等なパートナーシップによる事業、企業のBOPビジネス支援、CSRコンサルティングなどの活動を行う。2012年、夫のペオ・エクベリ氏と「ワンプラネット・カフェ」を設立。日本企業向けの講演、研修、視察ツアーなどを開催。SDGsを基礎としたサステナビリティ関連のコンサルティングのほか、近年は、ザンビアで廃棄されていたバナナ繊維と日本の和紙技術を活かした「バナナペーパー」事業に注力。2016年世界フェアトレード認証を取得。2020年経済産業省「SDGsに取り組む企業事例15社」に選定。



株式会社One Planet Café  取締役/サステナビリティ・プロデューサー

ペオ・エクベリ
スウェーデン出身。NGO環境団体のリーダー、ジャーナリストとして活動を始め、来日。1997年「One World国際環境ビジネスネットワーク」を設立。日本全国で環境問題の解決やサステナビリティの原理原則についての講演を行い、テレビ・ラジオの環境番組のナビゲーターなどを務める。スウェーデンでのサステナビリティ体験を提供する視察ツアーを20年以上に渡り実施。2011年、サステナブルでエシカルな紙作り「バナナペーパープロジェクト」を「One Planet Caféザンビア」と共にスタート。2012年、妻のエクベリ 聡子氏と「ワンプラネット・カフェ」を設立。著書に、エクベリ 聡子氏との共著『うちエコ入門』(宝島社)などがある。



サステナビリティを行動に移していこうと、日本で長年、企業向けの講演や研修、スウェーデンの視察ツアーなどを開催してきた「ワンプラネット・カフェ」のエクベリ夫妻。自らサステナブルなビジネスの実践者となり、日本初のフェアトレード認証紙「バナナペーパー」も開発。日本、スウェーデン、ザンビアを拠点にグローバルに活動されています。CEOである聡子さんと、環境リーダーとしても知られるペオさんを、東京・虎ノ門のオフィスに訪ねました。



「持続可能な成長」を続けるスウェーデン。



マーティン
お会いできて嬉しいです。この素敵な名刺が、バナナの木の繊維から作ったという「バナナペーパー」ですか?
エクベリ 聡子
そうです。紙としては日本初の世界フェアトレード認証(WFTO)を取得していて、現在17カ国で取り扱われています。私たちも今日をとても楽しみにしていました。ちょうど先週、スウェーデンで実施している視察ツアーを終えて帰ってきたばかりなんです。


「ワンプラネット・カフェ」が手がけたバナナペーパーは、世界フェアトレード機関 (WFTO: World Fair Trade Organization )による認証を日本の紙の分野で初めて取得。また2021年には、クライメート・ポジティブ(排出するよりも多くのCO₂を吸収する取り組み)を達成した。



マーティン
サステナブルなライフスタイルを日本の方々に体験してもらうという、視察ツアーですね。
ペオ・エクベリ
はい。日本の企業の方々や大学生をお連れして、欧州初のカーボンニュートラルな地区、私の故郷でもあるマルメ市内を中心に回るツアーでした。これまで50回以上開催しています。
マーティン
エクベリさんたちは日本でもう20年ほど、持続可能な暮らし方や働き方を提案する活動を続けられているそうですね。まだSDGsという言葉もない時代から、日本で活動をスタートされていたのですね。




ペオ・エクベリ
そうですね。環境問題の解決やサステナビリティの原理原則について日本各地で500回以上の講演を重ね、テレビやラジオの環境番組にキャスターとして出演するなどの活動を行ってきました。私たちは2012年に、サステナビリティに貢献するビジネスを生み出すことをミッションに「ワンプラネット・カフェ」を立ち上げました。企業向けにサステナビリティの基本やSDGsについての講演や研修、視察ツアーを行い、スウェーデンの事例を通じて、サステナビリティをよりわかりやすく伝える活動を続けています。 
 早くからの活動という点では、ボルボ社は、1980年代に環境問題に一石を投じる有名な広告を出しましたね。「私たちの製品は、公害と、騒音と、廃棄物を生みだしています。」というキャッチコピーです。私は当時、環境保護団体のリーダーから環境ジャーナリストとして活動を始めた頃でしたから、非常に触発されました。
エクベリ 聡子
まだようやく環境サミットなども始まった頃でしたが、世界に先駆けてメッセージを出されました。クルマの環境問題が議論され始めたぐらいの頃に、自らこのようなコミュニケーションをされたことは、やはりすごいです。
マーティン
ええ、あの当時は他のメーカーはまだ、フォースパワーなどをアピールしていた時代でしたから、反響は大きかったです。今見ると当たり前のことに見えますが、ボルボの環境への取り組みは創業時から変わらない企業の基本姿勢であり、流行りなどとは全く違うのだということです。
 私も数カ月前に、ディーラーの方々と一緒にスウェーデンのヨーテボリとノルウェーのオスロを訪ねていました。
 ボルボはずっと「安全」や「品質」に加えて「環境負荷低減」に取り組んできましたが、日本ではまだ環境負荷の低減が十分には浸透していません。電気自動車の普及にも、まだ懐疑的なところがあります。スウェーデンではすでに4割、ノルウェーでは8割以上が電気自動車です。ですから、北欧の電動化の実態を実際に見て欲しかったのです。
ペオ・エクベリ
実際に目にすることはとても重要です。一度体験して理解すれば、人は変わります。いきなり、不可能が可能に変わります。私たちも視察ツアーでそれを実感しています。
エクベリ 聡子
私も今回、改めてサステナビリティがスウェーデン社会に非常に浸透しているのを実感しました。




ペオ・エクベリ
スウェーデンは、国連のSDGs国際ランキングで常にトップ3に入っています。ここにデータがあるのですが、人口は増え続けていて今1000万人を超えていますが、1990年から2013年にかけて温室効果ガスの排出量を22%削減し、同時に一人当たりのGDP成長率は58%を達成しています。そしてこの傾向は現在まで続いています。つまりスウェーデンでは、環境負荷の低減と経済成長は両立することを証明しているわけです。
マーティン
おっしゃる通りです。大切なことは、「サステナブルグロース(sustainable growth)」だと思います。経済成長をしながら、サステナブルな社会を実現するということです。
ペオ・エクベリ
そのように、スウェーデンはボルボをはじめとする大企業が積極的に牽引してきたということですね。環境に正しいことを実践していけば、必ず結果が出ます。そして後から経済がついてくると思います。
マーティン
はい、長期的な視点で考えないといけません。


「サーキュラリティ」さらに「エシカル」が新たな価値へ



ペオ・エクベリ
日本人は何か新しいことを始める時、できるかどうかを心配します。スウェーデン人は、どうしたらできるかを考えますね。
エクベリ 聡子
スウェーデンの人は、とても変化を楽しんでいるように感じます。そこは日本との違いを感じるところかもしれません。




マーティン
私もその通りだと思います。日本は、最初の一歩が苦手なようですね。リスクを避けたいと思うのでしょう。ですから、ボルボは日本でもパイオニアになりたいと考えています。リスクは当然ありますが、リスクのないイノベーションはありません。
 最近私が感じるのは、スウェーデンではサステナビリティの概念がより広がっているということです。1つは、「サーキュラリティ」です。再生可能な原料を使い、廃棄物も再利用するなど、貴重な資源をできるだけ使わないようにするというサイクルです。例えばファストファッションは、海外でつくり、それをまたスウェーデンまで運び、そしてすぐに廃棄します。それが環境にとって正しいことなのか、という議論になっています。
 もう一つは、「エシカル」です。人や地球環境に配慮した倫理的なビジネスが、企業の責任だと私たちは考えています。取り組みの一つとして、ボルボのクルマのインテリアはレザーフリーになっていきます。
ペオ・エクベリ
すばらしいですね。自然と人間と、動物も尊重する、ということですね。
マーティン
しかし、日本のお客様には「コスト削減ですか」と言われてしまいます(笑)。
ヨーロッパでは、すでにエシカルが新しいプレミアムになっていると感じます。プレミアムなカーブランドの象徴は、かつてはフォースパワーやレザーシート、豪華な内装などでした。これからはそれらよりも、CO₂排出量の低さなどどれだけエシカルであるかが他との差別化のポイントになるだろうと思っています。「プレミアム」の概念も変化していくはずです。
 私たちはさらにその根拠を、数字で証明することが必要だと考えています。というのも、今のヨーロッパのお客様は明確なエビデンスを求めています。「私たちはサステナブルカンパニーです」と言うだけではもう誰も信用してくれません。真のサステナブルでエシカルなプロダクトであるかどうかです。それがなければ、この会社は「グリーンウォッシュ」だと判断されてしまうでしょう。
 ですからボルボでは、電気自動車のライフサイクル全体のCO₂排出量、ライフサイクルアセスメント(LCA)も、データをすべてウェブサイトに公開しています。私たちは、企業側からお客様に対してきちんと説明する責任があると思っています。




ペオ・エクベリ
確かにそうですね、エビデンスと環境への原理原則の理解は、スウェーデンの強みです。日本ではいまだに感覚的な議論が多い気がします。「これは環境にやさしい」とか「そうは思わない」とかです。重要なことは、「何が環境にやさしいか」ではなく「何が環境に正しいか」だと思います。感覚ではなく、科学的な根拠に基づいたサステナビリティが必要です。
 これからEUはグリーンウォッシュに関する法律を導入します。そうなれば本当に「環境に正しい」ことを証明しなければいけません。不可欠なのが、第三者による認証です。「サステナビリティのための運転免許証」と私たちは言っていますが、中立な立場の人のチェックを受けているからこそ信頼性があるわけです。
マーティン
そうした信頼できる第三者からの認証は、お客様からの信頼を得るためにもビジネスにとっては非常に重要だと思います。


聞き手:ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長 マーティン・パーソン

1971年スウェーデン生まれ。明治大学に1年間留学して経営学を学び、1999年ボルボ・カーズ・ジャパンに入社。約10年を日本で過ごす。その後、スウェーデン本社でグローバル顧客管理部門の責任者を務め、ロシア、中国などを経て、2020年10月、ボルボ・カー・ジャパンの社長に就任。日本で楽しみにしているのは、温泉地巡り。日本の温泉は、旅館や料理などトータルに楽しめるのはもちろん、温泉地の豊かな自然が何よりの癒し。